第1章 - 4 山代勇(7)
文字数 1,204文字
4 山代勇(7)
そう言って、明らかに男だって姿を凝視したのだ
ところが男は反応。背中を向けたまま、鍵を開けようと悪戦苦闘しているようだ。
あまりに旧式過ぎる内鍵は、開けるのにちょっとしたコツがいる。そんなことに気が付いたのか、男はいきなり扉を開けることを諦めた。
下を向いている姿勢を崩さず、そのまま翔太に向かって突進したのだ。
その時、侵入者の顔がチラッと見えた。その驚きに、翔太は身構えたまま硬直してしまう。続いて「ドシン!」と衝撃があり、彼は真後ろにひっくり返ってしまうのだった。
しこたま後頭部を畳に打ち付け、あまりの痛みに頭を抱えて動けない。
その隙に侵入者は窓を開け、片足を必死に下枠に乗せた。
そのまま一気に外に出ようとしたのだろう。両手でしっかり窓枠を掴み、あとは残った足を蹴り上げ、身体ごと表へ飛び降りようという算段だ。
その時、もう片方の足の下には何かがあって、侵入者は気にすることなく力一杯踏み込んだのだ。「ガキッ」と鈍い音がして、足が微かに横滑りする。
もしもこの時、一瞬でも飛び降りることをためらっていれば、結果は少し違っていたのかも知れない。
しかし右足を下枠に乗せたまま、男は躊躇なく身体を窓の外へと放り出した。
ところが左足は窓の下枠を越えられない。横滑りしたせいで踏ん張りが効かず、下枠を越えるどころか、畳から少し浮き上がっただけだった。
身体は縁を描いて窓の外へ落ちていき、いきなり「バタン」と大きな音がした。
その音に気が付き、やっと翔太は顔を上げる。後頭部を押さえつつ立ち上がり、恐る恐る窓の方を振り返るのだ。
すでに侵入者の姿はなくて、開け放たれた窓から冷たい風だけが入り込む。
凍えるように寒かった。
しかし皮膚から伝わる冷気より、より震えてしまう事実が彼を捉えて放さない。
侵入者が振り返った時、豆電球の微かな光がその顔付きを照らし出した。
その顔を見たせいで、後頭部の痛みと共に必死に思っていたのだった。
――嘘だ!
――どうしてだ?
――勘弁してくれよ!
脳裏に張り付いているその顔は、どう考えたって知った顔。
部屋にいたのは山代だった。
山代勇が翔太の部屋に忍び込み、慌てて窓から逃げ出していた。
「山さん……」
父親であろう男の名を呟いて、翔太はそこでやっと部屋の電気を点けたのだった。
部屋は見事に荒らされていて、衣類やら何やらが所狭しと散らばっている。
そんなのを見ても、もはや何も感じなかった。
実の父親が息子の住まいに押し入って、金目のものを漁って逃げた。そんな現実にショックを受けて、翔太はただただその場に立ち尽くすのだ。
――どうせ、盗まれるものなんて、何もないんだから……。
だから追い掛ける意味さえないと、彼は疑うことなくそう思う。
ところがその日はそうじゃなかった。片付けは後にして寝てしまおうと、彼が再び布団に就こうとした時だ。
そう言って、明らかに男だって姿を凝視したのだ
ところが男は反応。背中を向けたまま、鍵を開けようと悪戦苦闘しているようだ。
あまりに旧式過ぎる内鍵は、開けるのにちょっとしたコツがいる。そんなことに気が付いたのか、男はいきなり扉を開けることを諦めた。
下を向いている姿勢を崩さず、そのまま翔太に向かって突進したのだ。
その時、侵入者の顔がチラッと見えた。その驚きに、翔太は身構えたまま硬直してしまう。続いて「ドシン!」と衝撃があり、彼は真後ろにひっくり返ってしまうのだった。
しこたま後頭部を畳に打ち付け、あまりの痛みに頭を抱えて動けない。
その隙に侵入者は窓を開け、片足を必死に下枠に乗せた。
そのまま一気に外に出ようとしたのだろう。両手でしっかり窓枠を掴み、あとは残った足を蹴り上げ、身体ごと表へ飛び降りようという算段だ。
その時、もう片方の足の下には何かがあって、侵入者は気にすることなく力一杯踏み込んだのだ。「ガキッ」と鈍い音がして、足が微かに横滑りする。
もしもこの時、一瞬でも飛び降りることをためらっていれば、結果は少し違っていたのかも知れない。
しかし右足を下枠に乗せたまま、男は躊躇なく身体を窓の外へと放り出した。
ところが左足は窓の下枠を越えられない。横滑りしたせいで踏ん張りが効かず、下枠を越えるどころか、畳から少し浮き上がっただけだった。
身体は縁を描いて窓の外へ落ちていき、いきなり「バタン」と大きな音がした。
その音に気が付き、やっと翔太は顔を上げる。後頭部を押さえつつ立ち上がり、恐る恐る窓の方を振り返るのだ。
すでに侵入者の姿はなくて、開け放たれた窓から冷たい風だけが入り込む。
凍えるように寒かった。
しかし皮膚から伝わる冷気より、より震えてしまう事実が彼を捉えて放さない。
侵入者が振り返った時、豆電球の微かな光がその顔付きを照らし出した。
その顔を見たせいで、後頭部の痛みと共に必死に思っていたのだった。
――嘘だ!
――どうしてだ?
――勘弁してくれよ!
脳裏に張り付いているその顔は、どう考えたって知った顔。
部屋にいたのは山代だった。
山代勇が翔太の部屋に忍び込み、慌てて窓から逃げ出していた。
「山さん……」
父親であろう男の名を呟いて、翔太はそこでやっと部屋の電気を点けたのだった。
部屋は見事に荒らされていて、衣類やら何やらが所狭しと散らばっている。
そんなのを見ても、もはや何も感じなかった。
実の父親が息子の住まいに押し入って、金目のものを漁って逃げた。そんな現実にショックを受けて、翔太はただただその場に立ち尽くすのだ。
――どうせ、盗まれるものなんて、何もないんだから……。
だから追い掛ける意味さえないと、彼は疑うことなくそう思う。
ところがその日はそうじゃなかった。片付けは後にして寝てしまおうと、彼が再び布団に就こうとした時だ。