第2章 - 2 変化(4)
文字数 1,217文字
2 変化(4)
そこで今朝の事件を思い出し、ストンとすべてのパズルが噛み合ったのだ。
――そう言えば、丸い顔してたっけ?
茶髪の高校生が助けた方で、
――じゃあ、痴漢ってあのサラリーマン!?
なんてことを知ってから、どうしたって茶髪のことを探してしまう。
まさに不良を絵に描いたような高校生が、逆に痴漢を捕まえ、駅員にまで突き出したってのに、驚いた以上に興味が湧いた。
「もうね、痴漢の方がタジタジだったってさ」
「どうしてよ?」
「両腕を掴まれてね、まるで身動き、取れなかったらしいのよ」
「え? なんで? どうしてよ?」
「う〜ん、真由美はね、関節技じゃないかって、言ってたけど……」
「え? そこに、真由美もいたってこと?」
「一緒に降りて、証言してくれって、言われたんだってさ……その、茶髪にね」
最初の頃は、小太りでロン毛、茶髪の不良がそんなことを言うなんて……と、ちょっと気になっていただけだった。
ところがそれから三日目の朝、茶髪でロン毛が消え失せる。
そこにいたのは小太りってだけの高校生で、ぺちゃんこだった鞄も消えて、代わりに薄汚れたリュック――後から聞いた話だが、彼の父親が大昔に使っていた、正真正銘、登山用のだったらしい――を背負っている。
――学校に行かないで、ピクニックにでも行くつもりかしら?
なんてことを思うと同時に、ちょっとガッカリというのが正直なところだった。
そうしてひと月くらい経過した頃、痴漢騒ぎのことなど忘れて、由依美はいつもの電車に乗っていた。車内は相変わらずの混み具合で、ギュウギュウとまでは行かないまでも満員電車には変わりない。
そんな車内で、彼女は再び声を聞いた。
「すみません! どなたか席を譲ってください!」
え? と思って振り向けば、すぐ後ろで女性がしゃがみ込んでいる。そしてなんと、それを支えているのがあの高校生だ。
すぐに前にいた人が席を譲り、彼はそこに女性を座らせる。
ところが次の駅に停車すると、女性を負ぶってさっさと電車を降りてしまった。
そのままホームのベンチに女性を寝かせ、彼は再び何かを叫んでいるようだった。
そんなことがあってから、由依美は気になって仕方がない。一度はわざわざ最寄駅を降りないで、彼がどこの駅で降りるかを見届けたりもした。
――やっぱり、あの高校なんだ……。
ポマードや煙草の臭いをプンプンさせて、いかにもって高校生ばかりが通うような学校に、彼もやっぱり通っていたのだ。
さらにそれから、夏休みが始まるまでのひと月ちょっとで、彼は驚くくらいの変化を見せる。
仁美の言った「大デブ」というのが夢だったのか……? というくらいに、一気にその身体が「小太り」くらいに小さくなった。
――こんな短期間で、ここまで変われるもんなの?
そんな驚きと一緒に、ますます由依美の気持ちも彼の方へと向きつつあった。
そして夏休みが終わった新学期、彼があっと驚くような姿で現れた。
そこで今朝の事件を思い出し、ストンとすべてのパズルが噛み合ったのだ。
――そう言えば、丸い顔してたっけ?
茶髪の高校生が助けた方で、
――じゃあ、痴漢ってあのサラリーマン!?
なんてことを知ってから、どうしたって茶髪のことを探してしまう。
まさに不良を絵に描いたような高校生が、逆に痴漢を捕まえ、駅員にまで突き出したってのに、驚いた以上に興味が湧いた。
「もうね、痴漢の方がタジタジだったってさ」
「どうしてよ?」
「両腕を掴まれてね、まるで身動き、取れなかったらしいのよ」
「え? なんで? どうしてよ?」
「う〜ん、真由美はね、関節技じゃないかって、言ってたけど……」
「え? そこに、真由美もいたってこと?」
「一緒に降りて、証言してくれって、言われたんだってさ……その、茶髪にね」
最初の頃は、小太りでロン毛、茶髪の不良がそんなことを言うなんて……と、ちょっと気になっていただけだった。
ところがそれから三日目の朝、茶髪でロン毛が消え失せる。
そこにいたのは小太りってだけの高校生で、ぺちゃんこだった鞄も消えて、代わりに薄汚れたリュック――後から聞いた話だが、彼の父親が大昔に使っていた、正真正銘、登山用のだったらしい――を背負っている。
――学校に行かないで、ピクニックにでも行くつもりかしら?
なんてことを思うと同時に、ちょっとガッカリというのが正直なところだった。
そうしてひと月くらい経過した頃、痴漢騒ぎのことなど忘れて、由依美はいつもの電車に乗っていた。車内は相変わらずの混み具合で、ギュウギュウとまでは行かないまでも満員電車には変わりない。
そんな車内で、彼女は再び声を聞いた。
「すみません! どなたか席を譲ってください!」
え? と思って振り向けば、すぐ後ろで女性がしゃがみ込んでいる。そしてなんと、それを支えているのがあの高校生だ。
すぐに前にいた人が席を譲り、彼はそこに女性を座らせる。
ところが次の駅に停車すると、女性を負ぶってさっさと電車を降りてしまった。
そのままホームのベンチに女性を寝かせ、彼は再び何かを叫んでいるようだった。
そんなことがあってから、由依美は気になって仕方がない。一度はわざわざ最寄駅を降りないで、彼がどこの駅で降りるかを見届けたりもした。
――やっぱり、あの高校なんだ……。
ポマードや煙草の臭いをプンプンさせて、いかにもって高校生ばかりが通うような学校に、彼もやっぱり通っていたのだ。
さらにそれから、夏休みが始まるまでのひと月ちょっとで、彼は驚くくらいの変化を見せる。
仁美の言った「大デブ」というのが夢だったのか……? というくらいに、一気にその身体が「小太り」くらいに小さくなった。
――こんな短期間で、ここまで変われるもんなの?
そんな驚きと一緒に、ますます由依美の気持ちも彼の方へと向きつつあった。
そして夏休みが終わった新学期、彼があっと驚くような姿で現れた。