第6章 - 2 新たな危機(2)
文字数 1,496文字
2 新たな危機(2)
――どうしてだ? 何が起きたっていうんだよ!!
明らかに、翔太だった頃の記憶にはないことだった。
あっちの世界でなかったことが、こっちの世界では起きている。
そしてまた今回も、絡んでいるのは一般人じゃ……きっとない。
部屋の惨状はそんな想像を嫌というほど感じさせたし、だいたい無理やり連れ去ろうなんて普通の人なら考えない。
だからこそ、達哉は「まさか……」と思いながらも、
――あいつがまた、絡んでいるなんてことが……?
そんな不安を抱いて目指した場所は、千尋や翔太のアパートに負けないくらいの古い建物。
――ここだ……。
以前の世界で一度だけ、訪ねた記憶が確かにあった。
借金を押し付けられてすぐ、藁をもすがる思いで訪ねてみたのだ。
すでに知らない人が住んでいて、どうしようもないくらいの絶望感に、彼は立っていられないほどだった。
ところが今度はそうじゃない。
ノックをしても返事はなかった。
ところがだ……手を伸ばせば届くだろうってくらいのところに、見覚えのあるものがぶら下がっている。
元々は店の忘れ物だった。
「え〜、そんなの使うんですか? それって絶対! レースクイーンとかが使うやつですよ〜」
そんな翔太の声も我関せずで、彼はそれを使って家路に就いた。
閉店してからの帰り際、いきなり雨が降り出し、彼が手にしたのが異様に大きい傘だった。
真っ白なビニール素材に赤いロゴがデカデカとある。そしてそのロゴは、あまりに有名なビール会社のものなのだ。
今から思えば、レース場というより、展示会場とかで配ったりしたのかも知れない。協賛している会社の傘で、どう考えたって街中で使うような代物じゃなかった。
そんな傘が玄関扉の横、台所に面した窓ガラスの真下に吊るしてあるのだ。
となれば、傘の持ち主――もちろん元々のじゃない――は引っ越してないし、あいつは今もここにいる。
そう思った途端、達哉の感情は一気に震えた。
――あの、野郎……。
翔太だった頃の憎悪があっという間に蘇り、どうにも抑えが効かなくなる。
彼は扉のノブを両手で掴み、こじ開けたいと本気で思った。
――どうせ居留守だろうが!
――さっさと出てきやがれ!
――この! クソ野郎!
そんな感情が渦巻いて、力一杯腕に力を込めたのだ。
ノブをひねることなく思いっきり押して、そのまま一気に引っ張った。
何度もこれを繰り返し、それでダメなら身体ごとぶち当たる! などと思っていたのだが、引っ張った途端に身体がいきなりすっ飛んでしまった。
なんの抵抗もなく扉が開いて、手からノブがスポッと抜ける。勢いのまま後ろっ側に吹っ飛び、地べたにドシンと尻餅を付いた。
――え! 鍵がかかってないのかよ!
身体の痛みを必死に堪え、彼はそんな驚き共に立ち上がる。そのまま玄関口まで一気に近付き、ドキドキしながら奥の方へと視線を向けた。
するといきなり目の前に、見覚えのある男が仁王立ちを見せている。
大きなボストンバックを抱え込み、達哉の姿に驚きの顔を向けていた。
これこそまさしく山代で、突然の達哉の出現に驚いたからだろう。口がワナワナと震えるが、言葉は一切出てこないのだ。
――天野さんがいなくなった! 何か知っているなら教えてください!
すぐにこんな台詞が浮かび上がるが、口にする寸前に、おかしなことに気が付いた。
山代の姿がボロボロだった。上から下まで泥だらけで、顔の至るところに乾いた血液がこびり付いたままなのだ。どう考えても普通じゃないし、
――まさか、こいつがやったのか!?
そう思った途端、思わず声になっていた。
――どうしてだ? 何が起きたっていうんだよ!!
明らかに、翔太だった頃の記憶にはないことだった。
あっちの世界でなかったことが、こっちの世界では起きている。
そしてまた今回も、絡んでいるのは一般人じゃ……きっとない。
部屋の惨状はそんな想像を嫌というほど感じさせたし、だいたい無理やり連れ去ろうなんて普通の人なら考えない。
だからこそ、達哉は「まさか……」と思いながらも、
――あいつがまた、絡んでいるなんてことが……?
そんな不安を抱いて目指した場所は、千尋や翔太のアパートに負けないくらいの古い建物。
――ここだ……。
以前の世界で一度だけ、訪ねた記憶が確かにあった。
借金を押し付けられてすぐ、藁をもすがる思いで訪ねてみたのだ。
すでに知らない人が住んでいて、どうしようもないくらいの絶望感に、彼は立っていられないほどだった。
ところが今度はそうじゃない。
ノックをしても返事はなかった。
ところがだ……手を伸ばせば届くだろうってくらいのところに、見覚えのあるものがぶら下がっている。
元々は店の忘れ物だった。
「え〜、そんなの使うんですか? それって絶対! レースクイーンとかが使うやつですよ〜」
そんな翔太の声も我関せずで、彼はそれを使って家路に就いた。
閉店してからの帰り際、いきなり雨が降り出し、彼が手にしたのが異様に大きい傘だった。
真っ白なビニール素材に赤いロゴがデカデカとある。そしてそのロゴは、あまりに有名なビール会社のものなのだ。
今から思えば、レース場というより、展示会場とかで配ったりしたのかも知れない。協賛している会社の傘で、どう考えたって街中で使うような代物じゃなかった。
そんな傘が玄関扉の横、台所に面した窓ガラスの真下に吊るしてあるのだ。
となれば、傘の持ち主――もちろん元々のじゃない――は引っ越してないし、あいつは今もここにいる。
そう思った途端、達哉の感情は一気に震えた。
――あの、野郎……。
翔太だった頃の憎悪があっという間に蘇り、どうにも抑えが効かなくなる。
彼は扉のノブを両手で掴み、こじ開けたいと本気で思った。
――どうせ居留守だろうが!
――さっさと出てきやがれ!
――この! クソ野郎!
そんな感情が渦巻いて、力一杯腕に力を込めたのだ。
ノブをひねることなく思いっきり押して、そのまま一気に引っ張った。
何度もこれを繰り返し、それでダメなら身体ごとぶち当たる! などと思っていたのだが、引っ張った途端に身体がいきなりすっ飛んでしまった。
なんの抵抗もなく扉が開いて、手からノブがスポッと抜ける。勢いのまま後ろっ側に吹っ飛び、地べたにドシンと尻餅を付いた。
――え! 鍵がかかってないのかよ!
身体の痛みを必死に堪え、彼はそんな驚き共に立ち上がる。そのまま玄関口まで一気に近付き、ドキドキしながら奥の方へと視線を向けた。
するといきなり目の前に、見覚えのある男が仁王立ちを見せている。
大きなボストンバックを抱え込み、達哉の姿に驚きの顔を向けていた。
これこそまさしく山代で、突然の達哉の出現に驚いたからだろう。口がワナワナと震えるが、言葉は一切出てこないのだ。
――天野さんがいなくなった! 何か知っているなら教えてください!
すぐにこんな台詞が浮かび上がるが、口にする寸前に、おかしなことに気が付いた。
山代の姿がボロボロだった。上から下まで泥だらけで、顔の至るところに乾いた血液がこびり付いたままなのだ。どう考えても普通じゃないし、
――まさか、こいつがやったのか!?
そう思った途端、思わず声になっていた。