最終章 - 2 2020年(2)
文字数 1,320文字
2 2020年(2)
その結果、二人はすぐに付き合い始め、由衣美の大学卒業と同時に結婚。それから遅れること六年で、浩一と千尋もゴールインする。
その頃、浩一は研修医として忙しく、一緒になって支えたいという、それは千尋たっての希望であった。
それからそれぞれ子供ができて、今やしっかり巣立った後だ。
そんな2020年の六月末日、久しぶりに集まろうと達哉が言い出し、近所に住んでる浩一夫婦と達哉夫婦が藤木の実家に集まったのだ。
「で、由衣美さんは?」
「クライアントがどうしても、今日の午前中じゃなきゃダメだって言い張ってさ、それでも、もうすぐ来るんじゃないかな?」
「そうなんだ、でもホント、凄いわよね、わたしなんてさっさと諦めちゃったけど、あの人国家試験、一発で合格だもの、浩一もそうだけど、頭の出来が違うんだよね」
由衣美は弁護士として活躍中で、千尋はずっと専業主婦。
達哉はなんとか一流企業に滑り込み、今年の年末で定年を迎える。
「で、どうするの? 定年しても、まだ働くんでしょ?」
「まあねえ〜 でも今、こんな状況だからさ、会社も大変だしね、いっそ潔く引退しちゃおうかなって、思ってるんだけど……」
「でも、おかしいよね? 達哉くんの知っていた未来には、〝コロナ〟なんてなかったんでしょ? それがさ、今はコロナコロナで、大騒ぎになっちゃってるもんね〜」
達哉が経験していた2020年では、コロナなんて病はまったく流行っていなかった。
そしてちょうど、彼はこの六月に入院。もちろん天野翔太としてだったが、後何日かで月が変わるという頃、他界していた。
つまりその後は、まったく知らない世界となるのだ。
「だからさ、みんなで実家に集まって、〝これから〟という時に乾杯しようよ」
そんな申し出を一番喜んだのは、未だ一人で頑張っているまさみだった。
八十八歳になる彼女は、同居の誘いを断り続け、今でもしっかり一人で暮らしている。
「千尋さんが近くにいてくれるし、由衣美さんだってしょっちゅう顔出してくれるから、お母さんはまだまだ一人で大丈夫!」
そう言って、浩一からの誘いを受けようとしない。
今日も料理すべて任せろと言って、台所に一人こもりっきりだ。
もちろん千尋は千尋で気が気じゃないから、何度も手伝おうと声にするが、
「いいのいいの、あなた達は普段がんばってるんだから、こういう時くらい、うちでゆっくりしててちょうだい」
なんてことを口にして、さらに冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、「さっさと酔っ払ってしまいなさい」などと口にした。
それでも二人だけでは乾杯し難い。
「なあ、お宅の旦那って、駅前のスーパーまで行ったんだよね? 門のところまできたくせに、わざわざ引き返してまでさ」
「うん、だってさ、由衣美ちゃんって、ワインしか飲めないじゃない? ここにワインなんてないだろうってね、急に思い出したのよ」
「に……してはさ、遅くない?」
「うん、確かにちょっと遅いよね?」
「まさか今頃、事故に遭っちゃってるなんてこと、ないだろうな?」
その時ちょうど、まさみがリビングに顔を出し、
「こら! なに不吉なこと言ってるの!?」
即行達哉の言葉にツッコミを入れた。
その結果、二人はすぐに付き合い始め、由衣美の大学卒業と同時に結婚。それから遅れること六年で、浩一と千尋もゴールインする。
その頃、浩一は研修医として忙しく、一緒になって支えたいという、それは千尋たっての希望であった。
それからそれぞれ子供ができて、今やしっかり巣立った後だ。
そんな2020年の六月末日、久しぶりに集まろうと達哉が言い出し、近所に住んでる浩一夫婦と達哉夫婦が藤木の実家に集まったのだ。
「で、由衣美さんは?」
「クライアントがどうしても、今日の午前中じゃなきゃダメだって言い張ってさ、それでも、もうすぐ来るんじゃないかな?」
「そうなんだ、でもホント、凄いわよね、わたしなんてさっさと諦めちゃったけど、あの人国家試験、一発で合格だもの、浩一もそうだけど、頭の出来が違うんだよね」
由衣美は弁護士として活躍中で、千尋はずっと専業主婦。
達哉はなんとか一流企業に滑り込み、今年の年末で定年を迎える。
「で、どうするの? 定年しても、まだ働くんでしょ?」
「まあねえ〜 でも今、こんな状況だからさ、会社も大変だしね、いっそ潔く引退しちゃおうかなって、思ってるんだけど……」
「でも、おかしいよね? 達哉くんの知っていた未来には、〝コロナ〟なんてなかったんでしょ? それがさ、今はコロナコロナで、大騒ぎになっちゃってるもんね〜」
達哉が経験していた2020年では、コロナなんて病はまったく流行っていなかった。
そしてちょうど、彼はこの六月に入院。もちろん天野翔太としてだったが、後何日かで月が変わるという頃、他界していた。
つまりその後は、まったく知らない世界となるのだ。
「だからさ、みんなで実家に集まって、〝これから〟という時に乾杯しようよ」
そんな申し出を一番喜んだのは、未だ一人で頑張っているまさみだった。
八十八歳になる彼女は、同居の誘いを断り続け、今でもしっかり一人で暮らしている。
「千尋さんが近くにいてくれるし、由衣美さんだってしょっちゅう顔出してくれるから、お母さんはまだまだ一人で大丈夫!」
そう言って、浩一からの誘いを受けようとしない。
今日も料理すべて任せろと言って、台所に一人こもりっきりだ。
もちろん千尋は千尋で気が気じゃないから、何度も手伝おうと声にするが、
「いいのいいの、あなた達は普段がんばってるんだから、こういう時くらい、うちでゆっくりしててちょうだい」
なんてことを口にして、さらに冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、「さっさと酔っ払ってしまいなさい」などと口にした。
それでも二人だけでは乾杯し難い。
「なあ、お宅の旦那って、駅前のスーパーまで行ったんだよね? 門のところまできたくせに、わざわざ引き返してまでさ」
「うん、だってさ、由衣美ちゃんって、ワインしか飲めないじゃない? ここにワインなんてないだろうってね、急に思い出したのよ」
「に……してはさ、遅くない?」
「うん、確かにちょっと遅いよね?」
「まさか今頃、事故に遭っちゃってるなんてこと、ないだろうな?」
その時ちょうど、まさみがリビングに顔を出し、
「こら! なに不吉なこと言ってるの!?」
即行達哉の言葉にツッコミを入れた。