第8章 - 1 更なる衝撃(2)
文字数 1,425文字
1 更なる衝撃(2)
普段なら、玄関を開けた途端に「おかえり」という声がする。
靴を脱いでスリッパを履く頃には、だいたいまさみの姿が現れるのだ。
ところがそんな姿が見えないままだ。部屋の明かりは点いているのに、声を掛けても返事がなかった。
達哉は台所の様子から、
――何か、買いに出たのかな?
夕食の材料に足りない何かがあって、慌てて近所のスーパーまで買いに出た?
きっとそうだと決め付けて、そのまま二階に上ろうとする。
ところがそこで気付くのだった。
階段下から覗ける部屋の扉が開いていた。さらに階段の照明だけじゃなく、なんと達哉の部屋まで煌々と明かりが点きっぱなしだ。
ここで初めて、何かがおかしいとしっかり感じる。
だから慌てて階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込んだのだ。するとすぐに、勉強机に置かれてあったメモを発見。
彼は慌てて手に取って、そのまま部屋を飛び出した。
――お父さんの具合が急変したとの連絡あり。
――帰ったらすぐに病院に来てください。
――母より。
メモにはそう書いてあり、さっき歩いたばかりの道を今度は懸命に走って戻った。
――頼む! 頼むから!
ただただ必死に何かを願い、彼は駅に向かって走り続けた。
幸い、達哉が病院に着いた頃には病状も落ち着いて、達郎はただ静かに眠っているように見えた。
しかしそれはあくまで薬のせいだし、決して病気が治ったわけじゃない。
また同じような発作が起きれば、次は手の打ちようがないかもしれない…… そう言われてしまったと、まさみは力なく微笑んだ。
そして彼女はここのまま病院に泊まると言い、
「簡易ベッドをね、さっき頼んだの……あれってね、思ったよりも快適なのよ……」
若い頃、夜勤でよく眠ったんだと続けて、そこでやっと、見覚えのある笑顔を達哉へ向けた。
そんな母親の顔を見ながら、山代とのことが何度も何度も頭を過ぎる。
しかしその度に、
――そんなこと教えたって、余計に、辛い思いをさせるだけだ!
犯人が誰だってことより、赤ん坊がどうなったの方がよっぽど大事に決まってる。だから何があっても聞き出してやると、達哉は改めて心に誓った。
「でさ、夕飯は食べたの?」
「ううん、だって作ってる最中だったのよ、電話があったの……」
「じゃあさ、コンビニで弁当か何か買ってくるよ。あと、歯ブラシとかさ、ああ、タオルとかもいるよね?」
彼はまさみにそう告げてから、眠っている父親の顔をマジマジ見つめて思うのだ。
――親父、もう少しだけ、生きていてくれ……。
結果、どうなるかはわからない。
しかし可能性はゼロじゃないし、少ないけれど、望みだってきっとある。
そんな思いを胸に抱いて、達哉は病室を後にする。そうして敷地内にあったコンビニ目指して歩いていると、いきなり見知った人物が彼の前方を横切った。
――え? どうしてここに?
なんと! 紙袋を抱えた千尋がそこにいた。達哉にまるで気付くことなく、彼女はなぜか慌てた感じでコンビニの中に入って消える。
もちろん彼もその後を追って、妙にドキドキしながら店の中に飛び込んだ。
すると雑誌コーナーの前に立ち、千尋が何やら神妙な顔を見せている。
そのまま声を掛けずに見ていると、文庫本を手に取っては元に戻して、そんな行為を何度となく繰り返すのだ。
達哉はそんな千尋にそうっと近付き、彼女の背中の方から静かに告げた。
「お客さん、立ち読みはご遠慮願います……」
普段なら、玄関を開けた途端に「おかえり」という声がする。
靴を脱いでスリッパを履く頃には、だいたいまさみの姿が現れるのだ。
ところがそんな姿が見えないままだ。部屋の明かりは点いているのに、声を掛けても返事がなかった。
達哉は台所の様子から、
――何か、買いに出たのかな?
夕食の材料に足りない何かがあって、慌てて近所のスーパーまで買いに出た?
きっとそうだと決め付けて、そのまま二階に上ろうとする。
ところがそこで気付くのだった。
階段下から覗ける部屋の扉が開いていた。さらに階段の照明だけじゃなく、なんと達哉の部屋まで煌々と明かりが点きっぱなしだ。
ここで初めて、何かがおかしいとしっかり感じる。
だから慌てて階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込んだのだ。するとすぐに、勉強机に置かれてあったメモを発見。
彼は慌てて手に取って、そのまま部屋を飛び出した。
――お父さんの具合が急変したとの連絡あり。
――帰ったらすぐに病院に来てください。
――母より。
メモにはそう書いてあり、さっき歩いたばかりの道を今度は懸命に走って戻った。
――頼む! 頼むから!
ただただ必死に何かを願い、彼は駅に向かって走り続けた。
幸い、達哉が病院に着いた頃には病状も落ち着いて、達郎はただ静かに眠っているように見えた。
しかしそれはあくまで薬のせいだし、決して病気が治ったわけじゃない。
また同じような発作が起きれば、次は手の打ちようがないかもしれない…… そう言われてしまったと、まさみは力なく微笑んだ。
そして彼女はここのまま病院に泊まると言い、
「簡易ベッドをね、さっき頼んだの……あれってね、思ったよりも快適なのよ……」
若い頃、夜勤でよく眠ったんだと続けて、そこでやっと、見覚えのある笑顔を達哉へ向けた。
そんな母親の顔を見ながら、山代とのことが何度も何度も頭を過ぎる。
しかしその度に、
――そんなこと教えたって、余計に、辛い思いをさせるだけだ!
犯人が誰だってことより、赤ん坊がどうなったの方がよっぽど大事に決まってる。だから何があっても聞き出してやると、達哉は改めて心に誓った。
「でさ、夕飯は食べたの?」
「ううん、だって作ってる最中だったのよ、電話があったの……」
「じゃあさ、コンビニで弁当か何か買ってくるよ。あと、歯ブラシとかさ、ああ、タオルとかもいるよね?」
彼はまさみにそう告げてから、眠っている父親の顔をマジマジ見つめて思うのだ。
――親父、もう少しだけ、生きていてくれ……。
結果、どうなるかはわからない。
しかし可能性はゼロじゃないし、少ないけれど、望みだってきっとある。
そんな思いを胸に抱いて、達哉は病室を後にする。そうして敷地内にあったコンビニ目指して歩いていると、いきなり見知った人物が彼の前方を横切った。
――え? どうしてここに?
なんと! 紙袋を抱えた千尋がそこにいた。達哉にまるで気付くことなく、彼女はなぜか慌てた感じでコンビニの中に入って消える。
もちろん彼もその後を追って、妙にドキドキしながら店の中に飛び込んだ。
すると雑誌コーナーの前に立ち、千尋が何やら神妙な顔を見せている。
そのまま声を掛けずに見ていると、文庫本を手に取っては元に戻して、そんな行為を何度となく繰り返すのだ。
達哉はそんな千尋にそうっと近付き、彼女の背中の方から静かに告げた。
「お客さん、立ち読みはご遠慮願います……」