第5章 - 1 決意(3)〜 2 行方
文字数 1,613文字
1 決意(3)
林田の父親はビルをいくつも持っていて、そんな父親のお陰であいつは好き勝手やっても生きていけてる。きっと今頃は出所して、のうのうと生活しているのだろうと、なんとも悔しげに翔太は言った。
「どうしてそんなに、俺のことを詳しく知っているのか、教えてくれ……」
千尋の部屋で、そんなふうに告げられて、慌てて翔太へ告げたのだった。
「まだもうひとつ、大事なことが残ってますから……」
そこからは、施設時代の辛い経験を捲し立て、
「荒井さんと絵里香ちゃんのためにも、このままってわけにはいかないでしょう? 実は僕、つい先日、林田商事って会社を見つけたんです。これって、あの林田と関係あったりするんじゃないかと……」
やはり達哉の思った通りで、翔太はすでにすべてを知っていた。
「商事だ金融だって言ったって、やってることは暴力団と変わらない。あんなところがどうして、養護施設の運営に関わっているのかが、今でも不思議でたまらないんだ……」
達哉が〝けしかける〟以前から、翔太なりに少しは調べていたらしいのだ。
ところが達哉の方には、まるでそんな記憶は残っていない。
――やっぱり、以前とは少しずつ変化しているのかも?
翔太の生涯を知る達哉の存在が、彼の今にも影響を与えているから、かもしれない。
ただとにかく、ノートを預かっていた少年のお陰で警察が本腰を入れ始め、一度は林田の逮捕へと繋がったのだ。
だから施設長らの悪事を暴くとするなら、やはり荒井のノートを見つけるのが一番だろうと、翔太が養護施設に出向いてみようということになる。
「ダメだったらその時はその時だ。とにかく、まずは荒井が書き残したっていうノートを探すことから始めてみよう!」
翔太は達哉にそう告げて、完全に気の抜けたビールをなんとも旨そうに飲み干した。
2 行方
「じゃあ僕の方は、林田が今、何をしているかを調べてみるよ」
どうして……あんなことを言ってしまったのか?
もちろん、自分から焚き付けたってこともある。それでもやっぱり、翔太のやる気に乗せられたっていうのが本当だろう。
翔太が施設に顔を出し、荒井が使っていた部屋を隅から隅まで調べても、ノートの欠片さえ出てこなかった。そして当然、ノートを隠し持っていた少年も退所済みで、彼はそんな事実を残念そうに口にしてから、さらに続けて言ったのだった。
「〝そいつ、山口まさと〟って言うんだけど、施設で聞いたらさ、そいつの本籍地だけは分かったんだ。まあ、退所してから、そこに戻ったとは考えにくいけど、今住んでるところを誰かが知っているかもしれないし、明日、朝一番で、行ってこようと思うんだ……」
山口まさと。
翔太の一学年後輩で、彼が荒井と同室だった。
荒井からノートの入った鞄を譲り受け、さらに山口まさとの本籍地とは、
「荒井が死んだ山ってのと……これがまた、えらく近いんだよ」
――こんな偶然あるわけない!
達哉を〝大山〟に呼び出して、彼は力強くそう訴えた。
そこで思わず、達哉は返してしまうのだ。
林田が今、どこで何をしているのかを、明日一日調べてみる……などと、なんて安易に口にしたのか?
「施設長は相変わらずアイツだったよ。だけど林田の方は、釈放された後、施設には戻っていないらしい……」
そんな翔太の言葉をしっかり受けて、彼は再びあのビル目指してやってきた。
ところがそこから困ってしまった。
まさか……ビルの中に入り込み、「林田さんは今どこに?」と尋ねるなんて度胸はないのだ。となれば、ずっとここで見張っているか……。
――親父の会社に、勤めているとは限らないし……。
だからさっさと諦めて、素直に白旗上げちゃうか……?
なんてことをチラッと思うが、今頃、翔太は長野の山奥に向かっている。
――きっと彼のことだから、心底、一生懸命に決まってる。
そんな翔太を心に思い、一か八かの勝負に出ようと決めるのだった。
林田の父親はビルをいくつも持っていて、そんな父親のお陰であいつは好き勝手やっても生きていけてる。きっと今頃は出所して、のうのうと生活しているのだろうと、なんとも悔しげに翔太は言った。
「どうしてそんなに、俺のことを詳しく知っているのか、教えてくれ……」
千尋の部屋で、そんなふうに告げられて、慌てて翔太へ告げたのだった。
「まだもうひとつ、大事なことが残ってますから……」
そこからは、施設時代の辛い経験を捲し立て、
「荒井さんと絵里香ちゃんのためにも、このままってわけにはいかないでしょう? 実は僕、つい先日、林田商事って会社を見つけたんです。これって、あの林田と関係あったりするんじゃないかと……」
やはり達哉の思った通りで、翔太はすでにすべてを知っていた。
「商事だ金融だって言ったって、やってることは暴力団と変わらない。あんなところがどうして、養護施設の運営に関わっているのかが、今でも不思議でたまらないんだ……」
達哉が〝けしかける〟以前から、翔太なりに少しは調べていたらしいのだ。
ところが達哉の方には、まるでそんな記憶は残っていない。
――やっぱり、以前とは少しずつ変化しているのかも?
翔太の生涯を知る達哉の存在が、彼の今にも影響を与えているから、かもしれない。
ただとにかく、ノートを預かっていた少年のお陰で警察が本腰を入れ始め、一度は林田の逮捕へと繋がったのだ。
だから施設長らの悪事を暴くとするなら、やはり荒井のノートを見つけるのが一番だろうと、翔太が養護施設に出向いてみようということになる。
「ダメだったらその時はその時だ。とにかく、まずは荒井が書き残したっていうノートを探すことから始めてみよう!」
翔太は達哉にそう告げて、完全に気の抜けたビールをなんとも旨そうに飲み干した。
2 行方
「じゃあ僕の方は、林田が今、何をしているかを調べてみるよ」
どうして……あんなことを言ってしまったのか?
もちろん、自分から焚き付けたってこともある。それでもやっぱり、翔太のやる気に乗せられたっていうのが本当だろう。
翔太が施設に顔を出し、荒井が使っていた部屋を隅から隅まで調べても、ノートの欠片さえ出てこなかった。そして当然、ノートを隠し持っていた少年も退所済みで、彼はそんな事実を残念そうに口にしてから、さらに続けて言ったのだった。
「〝そいつ、山口まさと〟って言うんだけど、施設で聞いたらさ、そいつの本籍地だけは分かったんだ。まあ、退所してから、そこに戻ったとは考えにくいけど、今住んでるところを誰かが知っているかもしれないし、明日、朝一番で、行ってこようと思うんだ……」
山口まさと。
翔太の一学年後輩で、彼が荒井と同室だった。
荒井からノートの入った鞄を譲り受け、さらに山口まさとの本籍地とは、
「荒井が死んだ山ってのと……これがまた、えらく近いんだよ」
――こんな偶然あるわけない!
達哉を〝大山〟に呼び出して、彼は力強くそう訴えた。
そこで思わず、達哉は返してしまうのだ。
林田が今、どこで何をしているのかを、明日一日調べてみる……などと、なんて安易に口にしたのか?
「施設長は相変わらずアイツだったよ。だけど林田の方は、釈放された後、施設には戻っていないらしい……」
そんな翔太の言葉をしっかり受けて、彼は再びあのビル目指してやってきた。
ところがそこから困ってしまった。
まさか……ビルの中に入り込み、「林田さんは今どこに?」と尋ねるなんて度胸はないのだ。となれば、ずっとここで見張っているか……。
――親父の会社に、勤めているとは限らないし……。
だからさっさと諦めて、素直に白旗上げちゃうか……?
なんてことをチラッと思うが、今頃、翔太は長野の山奥に向かっている。
――きっと彼のことだから、心底、一生懸命に決まってる。
そんな翔太を心に思い、一か八かの勝負に出ようと決めるのだった。