第5章 -  6 急転直下(4)

文字数 1,764文字

 6 急転直下(4)
 


 昔の部下に頼んで調べて貰うと、車の持ち主は林田商事名義となっていた。
 そして実際、ちゃんと調べたわけじゃなかったが、安藤は目にした男たちの印象だけで〝マトモ〟な会社じゃないと決めつける。
 ところが〝埃三つ四つ〟なんてもんじゃない。
 形だけでいい――安藤に向けて調べてやったと言えればいい――ということで、本田がちょこっと調べさせた途端、ゴミの臭いがやたらろ鼻を突いたのだった。
 悪どい詐欺に違法薬物売買、賭博やら違法アダルトショップ経営などなど、さらに叩けば大量のゴミが溢れ出ること間違いなしだ。
 関東で一二を争う暴力団組織とも繋がっており、さまざまな悪事の欠片ががあっちこっちに散見された。
「それでさ、マークしていたところに藤木さんが現れて、こりゃいかんってことになったんだろうね……」
 それでも踏み込む為には、決定的な証拠がまだ掴めない。
「でさ、俺がガツンとやられてすぐに、ボロボロになった藤木さんが現れたってことで、一気に突入することになったらしいよ」
 それからすぐに林田商事は倒産し、続いて林田金融も消え去った。
 林田親子は告訴され、金城をはじめ、社員の大半も逮捕されて監獄行きだ。 そうして様々な悪事が暴かれていき、荒井を殺害したのも金城だったとはっきりする。
 しかし元から、殺してしまおうと考えたわけじゃなかったらしい。
 やはりすべては林田の指示によるもので、雲隠れしてしまった荒井に、下手なことを喋らぬよう釘を刺そうとしただけだった。
 あいつの行き先なんて生まれ故郷くらいのもんだろう……そんな確信は見事に当たり、荒れ果てた家屋に荒井はたった一人で住んでいた。
 山口まさとに書かせた地図を頼りにそんな場所はすぐ見つかって、金城はあっという間に荒井の姿を発見する。
 それから林田の言葉を散々伝え、彼はさっさと別れの言葉を口にした。
 そんな金城に向け、荒井はまるで慌てることなく告げたのだった。
「付いてきて、貰えますか?」
 せっかくだから、持って帰って欲しいものがある。落ち着き払ってそう言葉にすると、彼は金城の返事も聞かずに背中を見せてしまうのだ。
 そうして登山道に入って行こうとする荒井に向けて、今度は金城が大声を上げた。
「てめえ! いい加減にしろよ! どこまで行こうってんだ!?」
 そんな声にも立ち止まることなく、彼はどんどん森の奥へと進んでいった。
「てめえ! おい! 待てって!」
 そんな声を発しながらも、金城は必死に荒井の後を追い掛ける。ハイキングコースを大きく外れ、そこをしばらく行くと荒井が立ち止まっていた。
 息の上がった金城のことを睨み付け、
「お前、なに考えてるんだ?」
 金城がそんな声を上げた途端、荒井はいきなり金城の方へ近付いた。驚いた金城が身構えようとした時、すでに彼に向かって飛び掛かっていった。
 荒井はきっと、自殺した生田絵里香の仇を討とうとしたのだろう。
 しかし結局、願いは叶わず、逆に己の命を捨て去ることになったのだ。そうしてすべてが明らかになり、やがて山口まさとの死体がおんなじ山から見つかった。
「どうして、山口って人まで殺されちゃったのかしら……?」
「やっぱり、荒井が書き残したっていうノートが原因、なんだろうか……?」
「ねえ、天野さんは知ってるの? その辺のこと……」
「いや、知らない。俺も今朝、テレビのニュースで知ったばかりだから……」
「ねえねえ、一度さ、安藤さんのところに行ってこない? きっとあの人なら知ってるだろうし、一度ちゃんと、お礼しといた方がいいと思うんだよね……わたしはさ……」
 そんな千尋の言葉によって、達哉が必死に声にする。
「あ! それならさ! 今度は俺も連れてってよ。俺だって、その人のお陰で今があるんだから、ちゃんとお礼を言いたいよ」
 長野に行こうと思わなければ、そこで偶然、安藤という男に出会わなかったら、二人はもっと酷い目に遭っていたかも知れないし、未だにきっと、すべてが闇の中だったろう。
「そうだよな……じゃあ、今度は三人で長野に行くか!」
 そんな翔太の明るい声に、さらに店の奥から声が掛かった。
「おいおい! そん時は俺も連れてってくれ!」
 三人が驚いて視線を向ければ、店の厨房から顔を覗かせ、高城が満面の笑みで手を振っていた。
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