第8章 -  4 スタートライン(2)

文字数 556文字

 4 スタートライン(2)
 


 以前の世界でも、東京に出てきた頃に〝彼女〟は翔太に会っていた。
 それは間違いなく、今、天野翔太が住んでいるアパートでのことだろう。
 なのになぜか、二人の仲は進展せずに、〝彼女〟は別の男と結婚するのだ。
 ――DEZOLVEに現れたあいつ……あれが、〝綾野〟だったのか……?
 店でのイザコザでバイトも辞めて、それでもきっと、綾野は〝彼女〟のことを諦めてはいなかった。
 それで、のこのこ大山に現れたのか? もしかしたらアパートまで出向いたのかもしれないが、とにかく二人は再び接近し、結婚して子供まで授かることになったのだ。
 ところが達哉が現れたせいで、何かが大きく変化した。
 ――そのせいで、千尋は綾野千尋にならずに済んだか?
 何がどうあれそうであろうし、なんにしたって情けないのは……。
 ――千尋って名前で、普通は何か感じるはずだろう!?
 我ながら、抜け過ぎだ! そんなイラ付きを感じながら、あっちでの彼女を脳裏にしっかり思い浮かべた。
 それは確かに、千尋らしさを忍ばせてはいる。しかしその顔から今の彼女を思い浮かべろってのは、かなり厳しいって印象なのだ。
 ただとにかく、あっちの世界で、なんとあの二人は結ばれていた。
 そんな二人と会うってだけで、達哉の顔は自然と崩れてしまうのだった。
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