第1章 - 3 天野翔太(3)

文字数 1,013文字

 3 天野翔太(3)
 
「さっきは悪かったな。黙ってた礼に、これ、やるからよ……」
 背後から腕が伸びてきて、その手のひらには小さなプリンが乗っていた。
 振り返ってみれば福田ではなくて、ガタイの大きい金子浩志がニヤついた顔して立っている。それから彼のトレーにプリンを置いて、さっさと仲間のところに帰っていった。
 結果、翔太のトレーにはプリンが二つ。
 ――あいつが、自分の分をくれたのか? 
 そう思いながら周りを眺めて、すぐに違うってことに気が付いた。
 食堂の空気が微妙におかしい。厨房へ行っている間に何かが起きて、さっきまでのざわついた感じが消え失せた……とすれば、その何かとは……?
 翔太はその場で立ち上がり、三人組の方へ視線を向ける。
 やはり金子のトレーにはプリンはあって、もちろん他の二人も同様だ。
 ところが金子のすぐ後ろ、背を向け合っている子供の様子に気が付いた。
 小学校の低学年くらいだろう。そんな小さな男の子が両手を膝の上に置き、食事にも手を付けずにジッと下を向いている。
 ――泣いてる、のか?
 そう思った途端、彼はトレーにあるプリンを手に取った。そのまま男の子の席まで持っていき、彼のトレーにストンとプリンを置いたのだ。
 その途端、男の子が翔太を見上げる。
 ――なんで?
 まさに困惑する顔がそこにあり、そんな気持ちは充分過ぎるほど理解できた。
 だから翔太は大きな声で、あえて言葉にしようと思うのだった。
「俺さ、プリン嫌いなんだよ。もしなんならさ、もう一個あるけど、そっちも食べる?」
 そう声にした途端、男の子は大慌てで首を左右に何度も振った。それから目だけを動かして、金子の様子を窺うような仕草を見せる。
 こんな反応を見る限り、この施設でのあの三人組はそれなりの力があるのだろう。となればこんな行為の先にはきっと、翔太にとって良くない何かが待ち受けている。
 そんな予想が当たったことを、彼はその数時間後に知ることになった。
 その夜、施設初日だったせいかとにかく眠くて仕方がない。だから就寝時刻には少しあったが、翔太はさっさと二段ベッドに潜り込んだ。
 一つ年下の少年が同室で、食堂でテレビでも観てるのか? 風呂から上がった時には部屋にいない。だからいずれ、戻った物音で起こされるに違いなかった。
 基本寝付きは良くないし、ちょっとした物音で目が覚めて、そうなったらなかなか寝付けない。
 ところがこの日はそうじゃなかった。
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