第1章 -  3 天野翔太(9)

文字数 1,047文字

 3 天野翔太(9)


「どうして! あんたがそんなことを知ってるんだ!?」
「最初は俺が、段取ったんだ……あいつに頼まれて……まさか、こんなことになっちまうなんて、思いもしなかったから」
「おかしいだろう? あいつ、林田ってのは確か、もう二十五歳くらいじゃないか! 絵里香の方は十五歳だぞ! どう考えたって、恋愛の対象になんかなる筈ないって!」
「だから、しょうがなかったんだ……しょうがなくて……」
 ――絵里香と二人っきりになりたい。
 そんな林田の申し出を、荒井には断りきれない理由があった。
「俺、小学校から中学までが酷くてよ、まあホント、人殺し以外はなんでもやったって感じだったさ。そんなのを、あいつはみんな知ってて……というか、ほとんどはさ、あいつの指示でやったことなんだ」
「暴走族とか、そんなのか?」
「族? へっ、そんな甘いもんじゃねえさ。あいつの兄貴は、ホンマもんのヤクザでさ、この施設だって、言ってみりゃあ、組の下部組織みたいなもんよ……だからさ……」
 それだけ言って、荒井は「フッ」と短いため息を吐いた。
「ま、そんなことはどうでもいい。とにかく俺は、逆らったらバラすって脅かされて、あいつには絶対、ずっと逆らえなかった。それでもよ、イタズラくらいなら、ちょっと触ったりするくらいならよ、減るもんじゃねえしって、思ってたんだ。それなのに、あのクソ野郎、ロリコン野郎のやつ、とうとう本当に、突っ込みやがった……くそ! 」
 ――突っ込みやがった。
 この言葉の意味を理解するのに、きっとふた呼吸程度は掛かったろう。
 それでもパッと閃いて、気付いた時には荒井の胸元を締め上げている。
 そこで初めて、荒井の顔を間近に見るのだ。
 そうして途端に、振り上げた拳が行き場を失い。ふらふら空を彷徨った。
「あいつ、言ったんだ。何をしたんだって、聞いたらよ、ヘラヘラ、笑いながら、大したことじゃ、ねえって……それも、何人かで、輪姦したんだって、言いやがった」
 腫れ上がった瞼から荒井の涙が溢れ出て、途切れ途切れの吐息が翔太の顔までしっかり届いた。
 そこでつかんでいた胸ぐらを突き放し、翔太は声を荒げて告げるのだった。
「それで、どうしてあんたが、ボコボコにされるんだ?」
「俺はあいつと、付き合ってたんだ……だから、だから……」
 だから、叩きのめそうとして……逆にやられてしまったって、ことだろう。
 どっちにしたって、
 ――自業、自得……。
 フッと浮かんだそんな言葉を口にできずに、痺れるような思いと共に飲み込んだ。
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