第1章 -  4  山代勇(2)

文字数 1,113文字

 4  山代勇(2)
 
 それから十分くらいして、翔太はひとり、深夜の公園を後にする。
 林田は完全に気を失っていた。死ぬなんてことはないだろうが、何ヶ月も入院生活を送ることにはなるだろう。散々股間を痛めつけたから、もしかしたら、二度と使いものにならないかもしれない。
 すべては自業自得……という意味では、翔太にとっても同様だった。
 彼はそのまま施設に戻り、その夜は普通に過ごすことができる。
 ところが次の日、学校へ行こうと施設を出ると、門のところで刑事が二人待っていた。
 チンピラの中には重傷者だっていただろうし、そうじゃなくても、かすり傷程度ってことはない。そんなのが五、六人となれば、何がどうであろうと過剰防衛にはなるだろう。
 ところが刑事が言うところには、林田への暴行容疑ってことだけなのだ。
 どうしてだかは知らないが、チンピラたちは黙して語らずだったらしい。
 ――きっと、自分たちで決着をつけるって、ことだろうな……。
 そんな覚悟を胸に抱いて、翔太はパトカーに乗り込んだのだ。
 それからすべてを正直に話し、そこから林田の悪行が白日の下に晒される。
 そんなことのお陰だろうが、幸い少年院には入らずに済んで、翔太はあっという間に釈放された。
 すべては、荒井の書き残したノートのお陰だ。
 彼のカバンを使うよう言われた同室の少年が、カバンの中のノートを発見。
 その驚きの内容に、彼は誰にも見せずにずっと隠し持っていた。
 そうして翔太が逮捕され、当然施設の関係者にも調査が入る。
 刑事がしてきた質問以上に、少年は一気にすべてを話し始めた。ノートに書かれていた内容を、林田に関わるすべてを刑事に伝えてしまうのだった。
 ――林田が乱暴したから施設の女の子が自殺した。
 ――だから天野翔太は、林田という悪人を成敗しようとしただけだ。
 だから彼は悪くないと、涙ながらに訴えたのだ。
 どうしてノートを見せなかったのかは分からない。
 ただその発言によって警察が本腰を入れ始め、そう時間かからずに林田への逮捕状が出ることになった。
 それでも出所後施設には戻れず、新聞販売店の寮に働きながら住むことになる。それから半年後、夜学の高校へも通い始め、誰より一生懸命勉学にも打ち込んだ。
 チンピラたちからは何もなく、彼は高校を卒業と同時に販売店を辞める。小さな木造のアパートを借り、昼間はバイク便で小金を稼ぎ、夜は駅前のバー「DEZOLVE」でウエイターとして働いた。
 翔太は二十二歳になっていて、店の雇われマスターは何かと世話を焼いてくれる。
 山代勇、五十四歳。彼も翔太と似たような境遇で、二人は何かと気が合い、あっという間に距離を縮めていったのだ。
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