第1章 -  5 天野翔太(藤木達哉)(3)

文字数 820文字

 5 天野翔太(藤木達哉)(3)



 さらに最悪だったのは、あっちこっちに転移していて、すでに手術が出来ない状態だということだ。
 そこから彼の思考能力は一気にダウンしてしまう。
 それからも、なんだかんだと言われたが、彼がはっきり覚えているのはたった一つのことだけなのだ。
「普通に生活できるのは、あと三ヶ月か……半年はきっと、厳しいかと思います」
 つまり半年経った頃には入院していて、それからはきっと、地獄の日々が続くことになるのだろう。
 そうしてしばらくは、いろんな意味で苦しんだ。
 どうしていきなり老人で、さらに死んじゃうってのはあまりに最悪過ぎるだろう。
 何をどう考えても意味不明だし、
 ――俺はあっちの世界で、そんなにひどいことをしたっていうのか?
 だからお仕置きだってことにしても、あまりに〝情け〟がなさ過ぎる。
 十七歳から六十一ってのも酷いのに、そこからいきなり死の宣告ってのは神も仏のないってくらいだ。
 そうして落ち込んだまま退院となり、達哉は一週間後に再び病院を訪れた。
 治療は一切行わない。
 抗がん剤や放射線治療、そしてさらには免疫療法も必要ないと、彼は医師に向かって言い切ったのだ。
 幸い天野翔太には貯金があって、半年や一年なら普通に暮らすことができそうだった。そんなことを退院後に知って、達哉は考えに考えてそんな結論に至っていた。
 借金を払い終わって、きっと我慢に我慢を重ねて溜め込んだ金だ。
 もちろん残す相手もいないから、気兼ねすることなく使い切れる。
 きっと治療をはじめてしまえば、普通の生活などできなくなってしまうのだ。副作用なんかもあるだろうし、身体が弱って自由が効かなくなるのは目に見えている。
 ――だったら、
 ――どうせ死んでしまうなら、
 ――それまで自由気ままに生きてやろう!
 不思議なくらいスパッと決まって、彼はそんな気持ちを医師へと告げた。さらに吉崎涼を呼び出して、仕事を辞めさせて欲しいと告げるのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み