第3章 - 1 捜索 1979年(4)
文字数 1,183文字
1 捜索 1979年(4)
足を止め、達哉に目を向けてすぐ、きっと思い出したのだ。
カウンターで挨拶をした若い男が、なぜだか今もすぐそばにいる。
付いてきた? そう思ったって不思議じゃないし、実際その通りなんだからそう考えるのは当然だろう。
そうして急に背を向けて、彼女は再び歩き出してしまった。
「ちょっとあんた! 聞いてるの!?」
そんな声で我に帰って、見れば中年女性が立ち上がり、睨みつけながら仁王立ちを見せていた。彼は慌てて倒れていた自転車を起こし、彼女に向かって告げたのだった。
「すみませんでした! ホント! ごめんなさい!」
ぺコンと頭だけ下げて、すぐに中年女性に背中を向ける。
「ちょっと! あんた!」
なんて声が聞こえたが、答えている暇などまったくなかった。
彼女の姿が、どこにもないのだ。
――え? どこかに入ったの?
達哉はそこから歩道沿いの店を一軒一軒眺めながら歩き、彼女の姿を必死に探した。
すると少し行ったところに、右手に折れる道がある。遠くに薄っすら赤い傘が見え、明らかに後ろを気にしながら歩いているようだ。
――追うの、やめようか?
そんな思いが一瞬過ぎるが、
――このままじゃ、あの店にだって行きづらくなっちまう!
となれば、せめて住まいくらいは突き止めたい……そう思い改め、達哉はそのままじっと、彼女の姿を見つめ続けた。
すると今度は左手に曲がって、再びその姿が見えなくなった。
と同時に、達哉は一気に走り出す。赤い傘のお陰でなんとか判別付いたが、これ以上離れたら闇夜に紛れてしまうかも知れない。
だから必死に角まで走って左を見るが、既に彼女の姿はどこにもなかった。
――きっと、ここからそんなに離れちゃいないぞ!
そんな思いで左の道を歩いて行くと、呆気ないくらいにすぐ見つかった。
赤い傘を差したまま、アパートの外階段を彼女がゆっくり上がっている。途中一回立ち止まり、傘の影からコソッと顔を覗かせた。まさに警戒している雰囲気で、物陰から眺めるだけで精一杯だ。
――どうしよう?
そう思っていると、アパートの二階で、真ん中の窓がほんの少しだけ明るくなった。
ところがすぐに真っ暗になり、それからしばらく待っていたが、部屋の明かりはなかなか点かない。それでもきっと、彼女はそこにいるのだろう。
――俺の、せいか……。
もしも尾けてきていたら、明かりを点ければ部屋がどこかが分かってしまう。
それを恐れて、彼女は暗い部屋でひとり、ただただ時間の過ぎるのを待っているのだろう。そんなことに気が付いて、彼は心に思うのだった。
――ごめん……本当にごめん!
それでもアパートの一階くらいは、せっかくだからチェックして帰ろう。
天野翔太が住んでいれば、ポストに苗字くらいはある筈だ……などと考え、アパートの敷地内に足を踏み入れかけた時だった。
足を止め、達哉に目を向けてすぐ、きっと思い出したのだ。
カウンターで挨拶をした若い男が、なぜだか今もすぐそばにいる。
付いてきた? そう思ったって不思議じゃないし、実際その通りなんだからそう考えるのは当然だろう。
そうして急に背を向けて、彼女は再び歩き出してしまった。
「ちょっとあんた! 聞いてるの!?」
そんな声で我に帰って、見れば中年女性が立ち上がり、睨みつけながら仁王立ちを見せていた。彼は慌てて倒れていた自転車を起こし、彼女に向かって告げたのだった。
「すみませんでした! ホント! ごめんなさい!」
ぺコンと頭だけ下げて、すぐに中年女性に背中を向ける。
「ちょっと! あんた!」
なんて声が聞こえたが、答えている暇などまったくなかった。
彼女の姿が、どこにもないのだ。
――え? どこかに入ったの?
達哉はそこから歩道沿いの店を一軒一軒眺めながら歩き、彼女の姿を必死に探した。
すると少し行ったところに、右手に折れる道がある。遠くに薄っすら赤い傘が見え、明らかに後ろを気にしながら歩いているようだ。
――追うの、やめようか?
そんな思いが一瞬過ぎるが、
――このままじゃ、あの店にだって行きづらくなっちまう!
となれば、せめて住まいくらいは突き止めたい……そう思い改め、達哉はそのままじっと、彼女の姿を見つめ続けた。
すると今度は左手に曲がって、再びその姿が見えなくなった。
と同時に、達哉は一気に走り出す。赤い傘のお陰でなんとか判別付いたが、これ以上離れたら闇夜に紛れてしまうかも知れない。
だから必死に角まで走って左を見るが、既に彼女の姿はどこにもなかった。
――きっと、ここからそんなに離れちゃいないぞ!
そんな思いで左の道を歩いて行くと、呆気ないくらいにすぐ見つかった。
赤い傘を差したまま、アパートの外階段を彼女がゆっくり上がっている。途中一回立ち止まり、傘の影からコソッと顔を覗かせた。まさに警戒している雰囲気で、物陰から眺めるだけで精一杯だ。
――どうしよう?
そう思っていると、アパートの二階で、真ん中の窓がほんの少しだけ明るくなった。
ところがすぐに真っ暗になり、それからしばらく待っていたが、部屋の明かりはなかなか点かない。それでもきっと、彼女はそこにいるのだろう。
――俺の、せいか……。
もしも尾けてきていたら、明かりを点ければ部屋がどこかが分かってしまう。
それを恐れて、彼女は暗い部屋でひとり、ただただ時間の過ぎるのを待っているのだろう。そんなことに気が付いて、彼は心に思うのだった。
――ごめん……本当にごめん!
それでもアパートの一階くらいは、せっかくだからチェックして帰ろう。
天野翔太が住んでいれば、ポストに苗字くらいはある筈だ……などと考え、アパートの敷地内に足を踏み入れかけた時だった。