第5章 - 5 危機一髪(3)
文字数 1,730文字
5 危機一髪(3)
そうして車のヘッドライトがハイビームに変わり、しばらくすると前方の車もパッシングをして返すのだ。
――その車の中でピンピンしているはずだ。今のところはな……。
そんな言葉が頭から離れぬままに、前方の車から十数メートル離れたところでこっちの車も停車した。
林田に促され翔太が後部座席から降り立つと、ヘッドライトに照らされた達哉の姿が浮かび上がった。二人の男たちに挟まれて、まさに立たされているという印象そのものだ。
「藤木さん! 大丈夫かあ!?」
思わずそんな声を上げると、いきなり腹にズシンと衝撃があった。
堪らず翔太は腹を抱えて倒れ込む。すると今度は脇腹に強烈な蹴りが入って、彼は唸り声を上げる間もなく身体を折り曲げ、丸まった。
息がなかなか吸えず、腹辺りが強烈に痛んだ。
しかし彼はそうなってやっと、しっかり漂う潮の香りに気が付いた。
フッと、さっきの言葉が蘇り、
――ドラム缶に詰め込んで、海に沈んでもらうぞ……。
まさかそこまではしないだろう……と、彼は内心思っていたのだ。しかしヘッドライトに照らされた先に、彼にはしっかり見えたのだった。
工場らしき建物があって、その前にズラっとドラム缶が並んでいたのを……。
藤木達哉から全容を聞き出し、やってきた翔太と一緒にこれ幸いと殺してしまう……などと、刑事ドラマのような行為をこいつら本当にするつもりなのか!?
腹の痛みを忘れるような怒りがドッと噴き出し、
――ふざけるな!
そう叫ぼうとした瞬間だった。
翔太の身体に何かがバサッと覆い被さった。
驚きと恐怖に息を呑み、思わず全身が硬直する。
しかしそのまま何も起こらず、更なる痛みも何もない。
――いったいなんだよ!?
そんな思いに突き動かされて、覆い被さったものを一気に払い除けようとした。
ところがその時、掠れたような声がした。
「天野さん……ごめん……」
どうあったって知ってる声で、か細いそれが震えるように響き聞こえる。だから慌てて上半身を起こそうとした途端、そこに強烈な蹴りが襲い掛かった。
「ほら! どうすんだよ〜お二人さん! このままじゃドラム缶と一緒に、冷た〜い海の中ってことになっちまうぜ〜」
そんな声を耳にして、顔を地べたに打ち付けながらも必死に辺りの様子を窺ったのだ。
すぐそばに、事務所から一緒だった若い男が立っていて、
――こいつが、蹴りを入れたのか!
そう悟った途端に、男の脚が大きく揺れた。
――来る!
咄嗟に身体を反転させて、さっさと起きあがろうとした……のだが、空を切ったはずの足が浮き上がった上半身を直撃する。
男の足裏全体が胸にドシンとぶち当たり、翔太の身体は再び地面に叩き付けられた。
それから嫌というほど痛めつけられ、気付けば冷たい地べたに大の字だ。すでに周りは完全な闇夜で、ヘッドライトだけが辺りを映し出している。
「さて、お目覚めかな……」
聞き覚えのある声が聞こえて、翔太は必死に声にした。
「……藤木、達哉は、どうしたんだ?」
「彼なら、お前さんのすぐ隣に、いるじゃないか?」
そんな声に、懸命に首を横にしようとするが、筋か何かを痛めたようで動かない。
だから翔太は両手を必死に動かしたのだ。
すると右手が何かに触れて、それが人なんだとすぐに知れる。
「あんたたち、こんなことしてどうなるか、分かってるのか!?」
――気を失っている?
「今回のことを知っている人間は、俺たち二人だけじゃないんだ! 今頃きっと、警察だって動き出しているぞ!」
――まさか、もう殺されているのか?
男が言うように、隣にいるのは藤木達哉に違いなかった。
だから右手に触れる身体を必死に叩くが、〝うん〟とも〝すん〟とも反応がない。
「くそっ! 彼になにをしたんだ! おい、藤木さん! 藤木さん! 大丈夫か? 返事をしてくれ! 藤木さん!」
「藤木さんは死んじゃいないさ、今のところはね……」
「こんなことして、ただで済むと思うなよ!」
「自分の状況ってやつをしっかり理解してから、声にして欲しいモンだよなあ!」
林田はそう言いながら、靴底の踵辺りを翔太の額に押し付けた。さらにギリギリ擦り付けながら、さも愉快そうな声を上げる。
そうして車のヘッドライトがハイビームに変わり、しばらくすると前方の車もパッシングをして返すのだ。
――その車の中でピンピンしているはずだ。今のところはな……。
そんな言葉が頭から離れぬままに、前方の車から十数メートル離れたところでこっちの車も停車した。
林田に促され翔太が後部座席から降り立つと、ヘッドライトに照らされた達哉の姿が浮かび上がった。二人の男たちに挟まれて、まさに立たされているという印象そのものだ。
「藤木さん! 大丈夫かあ!?」
思わずそんな声を上げると、いきなり腹にズシンと衝撃があった。
堪らず翔太は腹を抱えて倒れ込む。すると今度は脇腹に強烈な蹴りが入って、彼は唸り声を上げる間もなく身体を折り曲げ、丸まった。
息がなかなか吸えず、腹辺りが強烈に痛んだ。
しかし彼はそうなってやっと、しっかり漂う潮の香りに気が付いた。
フッと、さっきの言葉が蘇り、
――ドラム缶に詰め込んで、海に沈んでもらうぞ……。
まさかそこまではしないだろう……と、彼は内心思っていたのだ。しかしヘッドライトに照らされた先に、彼にはしっかり見えたのだった。
工場らしき建物があって、その前にズラっとドラム缶が並んでいたのを……。
藤木達哉から全容を聞き出し、やってきた翔太と一緒にこれ幸いと殺してしまう……などと、刑事ドラマのような行為をこいつら本当にするつもりなのか!?
腹の痛みを忘れるような怒りがドッと噴き出し、
――ふざけるな!
そう叫ぼうとした瞬間だった。
翔太の身体に何かがバサッと覆い被さった。
驚きと恐怖に息を呑み、思わず全身が硬直する。
しかしそのまま何も起こらず、更なる痛みも何もない。
――いったいなんだよ!?
そんな思いに突き動かされて、覆い被さったものを一気に払い除けようとした。
ところがその時、掠れたような声がした。
「天野さん……ごめん……」
どうあったって知ってる声で、か細いそれが震えるように響き聞こえる。だから慌てて上半身を起こそうとした途端、そこに強烈な蹴りが襲い掛かった。
「ほら! どうすんだよ〜お二人さん! このままじゃドラム缶と一緒に、冷た〜い海の中ってことになっちまうぜ〜」
そんな声を耳にして、顔を地べたに打ち付けながらも必死に辺りの様子を窺ったのだ。
すぐそばに、事務所から一緒だった若い男が立っていて、
――こいつが、蹴りを入れたのか!
そう悟った途端に、男の脚が大きく揺れた。
――来る!
咄嗟に身体を反転させて、さっさと起きあがろうとした……のだが、空を切ったはずの足が浮き上がった上半身を直撃する。
男の足裏全体が胸にドシンとぶち当たり、翔太の身体は再び地面に叩き付けられた。
それから嫌というほど痛めつけられ、気付けば冷たい地べたに大の字だ。すでに周りは完全な闇夜で、ヘッドライトだけが辺りを映し出している。
「さて、お目覚めかな……」
聞き覚えのある声が聞こえて、翔太は必死に声にした。
「……藤木、達哉は、どうしたんだ?」
「彼なら、お前さんのすぐ隣に、いるじゃないか?」
そんな声に、懸命に首を横にしようとするが、筋か何かを痛めたようで動かない。
だから翔太は両手を必死に動かしたのだ。
すると右手が何かに触れて、それが人なんだとすぐに知れる。
「あんたたち、こんなことしてどうなるか、分かってるのか!?」
――気を失っている?
「今回のことを知っている人間は、俺たち二人だけじゃないんだ! 今頃きっと、警察だって動き出しているぞ!」
――まさか、もう殺されているのか?
男が言うように、隣にいるのは藤木達哉に違いなかった。
だから右手に触れる身体を必死に叩くが、〝うん〟とも〝すん〟とも反応がない。
「くそっ! 彼になにをしたんだ! おい、藤木さん! 藤木さん! 大丈夫か? 返事をしてくれ! 藤木さん!」
「藤木さんは死んじゃいないさ、今のところはね……」
「こんなことして、ただで済むと思うなよ!」
「自分の状況ってやつをしっかり理解してから、声にして欲しいモンだよなあ!」
林田はそう言いながら、靴底の踵辺りを翔太の額に押し付けた。さらにギリギリ擦り付けながら、さも愉快そうな声を上げる。