第8章 - 1 更なる衝撃(3)
文字数 1,227文字
1 更なる衝撃(3)
――あれ? あの自転車、どこかで見たことあるわ!
チラッと目に入った光景に、最初はちょこっとそう思っただけだ。
ところが通り過ぎようとした途端、誰かの発した言葉が耳に届いた。千尋はそこで立ち止まり、慌てて人だかりの前へと出ていった。
――あの人デカすぎて、ストレッチャーからはみ出ちゃってるよ!
そんな言葉の意味を理解した瞬間、あの自転車が誰のだったかを思い出した。
「それならさ、裏にある自転車でよければ使ってよ。捨てちまおうかって思ってたところだからさ、こっちは逆に助かっちまうし……」
新しい住まいから図書館までがけっこう遠い。
バスで通うとなると金も掛かるし、どうしようかと思ってる。
そんな千尋への言葉を聞き付け、高城権八がいきなり翔太に向けてそう言ったのだ。
――そうだ、新聞配達の自転車みたいにゴツイやつ、あれって絶対……。
天野翔太が譲り受けた自転車に間違いない!
「そう思ってさ、慌てて見物人をかき分けて、救急車の中を覗き込んだのね、そうしたら、そこら中が血だらけで、ああ、死んじゃうってね、思っちゃったのよ」
その日、天野翔太は夜勤明けだった。
午前中いっぱい睡眠を取り、午後から勉強しようと自転車に跨がり図書館へ向かう。
そうしてその途中、車道をゆっくり走っていると、いきなり歩道から自転車が飛び出してくる。細い歩道を走っていたママチャリが、歩行者を避けようとして思わず車道に飛び出したってところだろう。
前方に現れた障害物を避けようと、翔太は慌ててハンドルを切った。
ところがまさに運悪く、ちょうどその時、猛スピードで走り抜けようとする乗用車がいた。
当然、乗用車だって避けられない。
掠った程度の接触だったが、翔太は自転車もろとも歩道に向かって跳ね飛ばされた。
「で、脳震盪で気を失っちゃって、自転車のハンドルとかが当たっちゃったらしいんだけど、口の中のあっちこっちが切れちゃって、そこからの出血が凄かったのよ。でもね、意識もすぐに回復したし、しばらくは食事だけは大変だろうけど、後は大したことないってことらしいんだ」
そうして到着したのが玉堤病院で、脳震盪と口の中の裂傷、そして何箇所かの打撲以外は検査の結果も問題なし。
千尋は翔太の住み込んでいる社宅に向かい、保険証ほか必要なものを取り行く。
その帰り、翔太のために本でも買って行こうと思い立ち、そのお陰で達哉と出会うことができたのだった。
「だから明日とか明後日には退院できるんじゃない? でも、驚いたなあ、藤木くんのお父さんも、この病院に入院してたんだね」
千尋はそう言ってから「あ、ここ、ここなの」と、病室前に貼られたプレートを指差した。そこには「天野翔太」とだけあって、残りの三つは白いままだ。
「まあ、あれね、広い個室ってところかな」
そう言いながら扉を開けて、
「はあい! お見舞い第一号さんがいらっしゃいました!」
なんとも明るい声でそう声にした。
――あれ? あの自転車、どこかで見たことあるわ!
チラッと目に入った光景に、最初はちょこっとそう思っただけだ。
ところが通り過ぎようとした途端、誰かの発した言葉が耳に届いた。千尋はそこで立ち止まり、慌てて人だかりの前へと出ていった。
――あの人デカすぎて、ストレッチャーからはみ出ちゃってるよ!
そんな言葉の意味を理解した瞬間、あの自転車が誰のだったかを思い出した。
「それならさ、裏にある自転車でよければ使ってよ。捨てちまおうかって思ってたところだからさ、こっちは逆に助かっちまうし……」
新しい住まいから図書館までがけっこう遠い。
バスで通うとなると金も掛かるし、どうしようかと思ってる。
そんな千尋への言葉を聞き付け、高城権八がいきなり翔太に向けてそう言ったのだ。
――そうだ、新聞配達の自転車みたいにゴツイやつ、あれって絶対……。
天野翔太が譲り受けた自転車に間違いない!
「そう思ってさ、慌てて見物人をかき分けて、救急車の中を覗き込んだのね、そうしたら、そこら中が血だらけで、ああ、死んじゃうってね、思っちゃったのよ」
その日、天野翔太は夜勤明けだった。
午前中いっぱい睡眠を取り、午後から勉強しようと自転車に跨がり図書館へ向かう。
そうしてその途中、車道をゆっくり走っていると、いきなり歩道から自転車が飛び出してくる。細い歩道を走っていたママチャリが、歩行者を避けようとして思わず車道に飛び出したってところだろう。
前方に現れた障害物を避けようと、翔太は慌ててハンドルを切った。
ところがまさに運悪く、ちょうどその時、猛スピードで走り抜けようとする乗用車がいた。
当然、乗用車だって避けられない。
掠った程度の接触だったが、翔太は自転車もろとも歩道に向かって跳ね飛ばされた。
「で、脳震盪で気を失っちゃって、自転車のハンドルとかが当たっちゃったらしいんだけど、口の中のあっちこっちが切れちゃって、そこからの出血が凄かったのよ。でもね、意識もすぐに回復したし、しばらくは食事だけは大変だろうけど、後は大したことないってことらしいんだ」
そうして到着したのが玉堤病院で、脳震盪と口の中の裂傷、そして何箇所かの打撲以外は検査の結果も問題なし。
千尋は翔太の住み込んでいる社宅に向かい、保険証ほか必要なものを取り行く。
その帰り、翔太のために本でも買って行こうと思い立ち、そのお陰で達哉と出会うことができたのだった。
「だから明日とか明後日には退院できるんじゃない? でも、驚いたなあ、藤木くんのお父さんも、この病院に入院してたんだね」
千尋はそう言ってから「あ、ここ、ここなの」と、病室前に貼られたプレートを指差した。そこには「天野翔太」とだけあって、残りの三つは白いままだ。
「まあ、あれね、広い個室ってところかな」
そう言いながら扉を開けて、
「はあい! お見舞い第一号さんがいらっしゃいました!」
なんとも明るい声でそう声にした。