第1章 - 2 平成三十年(2)
文字数 1,107文字
2 平成三十年(2)
二メートルとまではいかないまでも、達哉より頭ひとつ分は背が高い。それでいてすごく痩せているから、まさに〝枯れ木〟のように骨と皮だけって印象だ。
見知らぬ会社の契約社員で、六十一歳だってのに、オンボロアパートに住むくらいだから、少なくとも順風満帆って人生じゃなかっただろう。
財布には三千円しか入っていないし、部屋にだってロクなものが置かれちゃいない。
プラスチック製の衣装ケースに、折り畳み式の小さなテーブルなんて、まるで貧乏学生の持ち物みたいだ。
それでもやっぱり、ここは四十一年後なんだと〝いやがうえにも〟突き付けられた。
さっきの電話らしい小さいやつも驚きだったが、それはそんなの以上に信じられないものだった。
リモコンみたいな機器をいじった途端、画面がぱっと明るくなって、いきなり番組が映り出した。
――すげ! これってカラーテレビなんだ!
達哉の知ってるテレビって言えば、絶対的に分厚いものだ。
奥行きが小さいものでも何十センチはあるし、チャンネルのつまみやらスピーカー部分が全面にあるから、実際の画面は器ほどにはなんだかんだで大きくならない。
それがこの部屋にあるやつは、画面自体がほとんどテレビの大きさだ。それも21インチは優にあるのに、手でつかめる程度の厚みしかない。
そしてあの頃も、テレビ放送はほとんどカラーになっていた。しかしこの時代のものとは何から何まで別物だと言えた。
――結局、俺が見てたのは、ぼんやり色が付いていたって、とこだよな……。
そんなふうに思うくらいに色鮮やかで鮮明で、まるで実際にそこに人がいるかのように見えるのだった。
それから達哉は意を決し、表の世界を見てみようと思う。部屋にあったジーンズを履いて、ランニングシャツのままアパートの外へ出ていった。
あの頃、もちろんコンクリートの家だってあったし、アメリカ映画に出てくるような洒落た建物だって少しはあった。
しかしだいたいは木造の茶色い家で、屋根は圧倒的に瓦作りだ。
ところが驚くくらいに景色が違った。家々の違いも然ることながら、なんといってもコンクリートが多すぎる。
大きなマンションだけじゃなく、道路も電信柱もコンクリートでできている。土剥き出しの道なんて、いったいどこにあるのかっていう印象なのだ。
そんな中、少し行ったところに小さな公園を発見する。
――まさか、機械仕掛けのブランコが、あったりするのか?
あまりに色鮮やかなジャングルジムがはっきり見えて、これも見慣れたものとはぜんぜん違った。それでもまさか、地面がコンクリートってことはないだろうと、彼はそのまま公園入り口に立ったのだ。
二メートルとまではいかないまでも、達哉より頭ひとつ分は背が高い。それでいてすごく痩せているから、まさに〝枯れ木〟のように骨と皮だけって印象だ。
見知らぬ会社の契約社員で、六十一歳だってのに、オンボロアパートに住むくらいだから、少なくとも順風満帆って人生じゃなかっただろう。
財布には三千円しか入っていないし、部屋にだってロクなものが置かれちゃいない。
プラスチック製の衣装ケースに、折り畳み式の小さなテーブルなんて、まるで貧乏学生の持ち物みたいだ。
それでもやっぱり、ここは四十一年後なんだと〝いやがうえにも〟突き付けられた。
さっきの電話らしい小さいやつも驚きだったが、それはそんなの以上に信じられないものだった。
リモコンみたいな機器をいじった途端、画面がぱっと明るくなって、いきなり番組が映り出した。
――すげ! これってカラーテレビなんだ!
達哉の知ってるテレビって言えば、絶対的に分厚いものだ。
奥行きが小さいものでも何十センチはあるし、チャンネルのつまみやらスピーカー部分が全面にあるから、実際の画面は器ほどにはなんだかんだで大きくならない。
それがこの部屋にあるやつは、画面自体がほとんどテレビの大きさだ。それも21インチは優にあるのに、手でつかめる程度の厚みしかない。
そしてあの頃も、テレビ放送はほとんどカラーになっていた。しかしこの時代のものとは何から何まで別物だと言えた。
――結局、俺が見てたのは、ぼんやり色が付いていたって、とこだよな……。
そんなふうに思うくらいに色鮮やかで鮮明で、まるで実際にそこに人がいるかのように見えるのだった。
それから達哉は意を決し、表の世界を見てみようと思う。部屋にあったジーンズを履いて、ランニングシャツのままアパートの外へ出ていった。
あの頃、もちろんコンクリートの家だってあったし、アメリカ映画に出てくるような洒落た建物だって少しはあった。
しかしだいたいは木造の茶色い家で、屋根は圧倒的に瓦作りだ。
ところが驚くくらいに景色が違った。家々の違いも然ることながら、なんといってもコンクリートが多すぎる。
大きなマンションだけじゃなく、道路も電信柱もコンクリートでできている。土剥き出しの道なんて、いったいどこにあるのかっていう印象なのだ。
そんな中、少し行ったところに小さな公園を発見する。
――まさか、機械仕掛けのブランコが、あったりするのか?
あまりに色鮮やかなジャングルジムがはっきり見えて、これも見慣れたものとはぜんぜん違った。それでもまさか、地面がコンクリートってことはないだろうと、彼はそのまま公園入り口に立ったのだ。