第1章 -  3 天野翔太(4)

文字数 1,296文字

 3 天野翔太(4)

 初めてベッドで寝るってのに、この日に限ってあっという間に眠りに落ちた。
 そうしてどのくらいが経ったのか? ふと……目が覚めて、部屋の明かりが消えているのを知る。同室の少年が戻ったのだろうと、翔太は再び目を閉じたのだ。
 その時一気に気が付いた。
 ――何かいる!!
 身体のあちこちに違和感を感じて、彼はベッドから慌てて飛び降りる。
 それからタオルケットを跳ね除けて、違和感の正体を目にした途端全身に痒みが襲いかかった。
 ベッドにたくさんの虫がいた。バッタやコオロギなんかはすぐわかったが、 他にも知らない虫がウジャウジャといる。たくさんの蟻が身体中にへばり付き、彼はそれらを取るのに再び風呂に入ることになったのだ。
 それからも、三人組の行為は続いた。
 夕食時に、いつもならいる筈の職員がいない。
 見れば荒井良裕の姿もなくて、その代わりに翔太のトレーの上には生ゴミだ。それは昼食時に出た残飯で、なんとも言えない異臭を放っているものだった。
 荒井が職員に声を掛け、どこかへ連れ出している間に残りの二人がやったのだ。
 普段から、手を出すのは荒井以外の二人ばかりで、荒井本人はその場にいないことも多かった。
 中学三年生で成績は優秀。施設の職員にも優等生だと思われているが、頭が切れる分悪質で、三人の中では圧倒的にリーダー的な存在だった。
 とにかく何かといえば腹ばかり殴られ、足を引っ掛けられて転んでも、翔太はただただ黙って耐えた。歯向かったところで逆効果だろうし、大騒ぎになるより耐える方が彼にとっては楽だったのだ。
 ところが三人の標的が他の子供に向けられたりすると、翔太の態度は一気に変わる。
 三人組の行為を止めに入り、それで自分が殴られようとも諦めようとはしなかった。
 日に日に彼の人望は高まって、そんなのも三人組には面白い筈がない。
 そして翔太が施設に移って、三ヶ月くらいが経った頃だ。
 三人組から学校の屋上に呼び出される。二人がかりで羽交い締めにされて、荒井が翔太の腹を何度も何度も殴るのだ。
「死ねよ! 死んじまえよ!」
 そんな言葉がその都度漏れて、あっという間に翔太の意識も途切れかかった。
 脚がガクンと折れ曲がり、そこでやっと満足したのか、荒井が金子と福田に告げるのだった。
「これくらいにしといてやるか、なあ」
 そんな声に二人は頷き、涼太から腕を離してサッと離れる。途端に翔太は膝を突き、そのままバタンと倒れ込んでしまった。 
「勘弁してやるよ!」
 さらに荒井がそう言いながら、翔太の横っ腹めがけて足を思いっきり蹴り込んだ。
 呻き声が漏れて、翔太の口から赤黒い唾液がほとばしる。
 顔に苦悶の表情が張り付いたのを確認し、やっと荒井は翔太から視線を外した。そのまま悠然と歩き出し、その後ろを金子と福田も続くのだ。
 そうして三人が階段踊り場に降り立った時、最後にいた福田がチラッと後ろを向いて翔太の様子を覗き見る。屋上の扉を閉める序でに、ほんの軽い気持ち見ただけだった。
 ところがそこに翔太はいない。
 あれ?――と思ってその周りを見回してすぐ、福田の視線はあるところで固まった。
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