第1章 -  3 天野翔太(5)

文字数 837文字

 3 天野翔太(5)
  
「おい!」
 翔太に向けての言葉だったか? 荒井と金子へのものだったのか?
 とにかく福田の発したその声に、二人もすぐに彼が驚いた理由を知った。
 翔太がフェンスの上にいたのだ。今にも落ちてしまいそうにフラフラで、フェンスの一番上っ側を両手で必死に掴んでいる。
 校舎は鉄筋コンクリートの三階建てだ。その屋上のフェンスを越えれば地上に向かって真っ逆さまで、普通なら助かることはまずないだろう。
「何やってるんだ? あいつ」
「自殺でもしようってか?」
 福田の不審げな問い掛けに、金子が満面の笑みで面白そうに声にした。
 しかし荒井は真剣な顔を崩さずに、翔太の登ったフェンスの方へ歩き出す。 
 そうして翔太のすぐそばに来て、妙に落ち着き払って告げるのだった。
「自殺でも、する気なのか?」
 すると翔太は笑顔になって、
「ああ、そのつもりだ……心配か?」
 そう言いながら、荒井の後ろにいる金子と福田をジッと見つめる。
「ふん、そんな度胸もないくせに……」
「そうだよ、やれるもんならやってみろって!」
「そうだ! やれやれ!」
 荒井の嘲るような物言いに、そんな二人の声が続いた。
 すると再び荒井の声が響き渡って、
「ちょっと黙ってろ!!」
 ドスの効いたその声色に、二人は揃って下を向いた。
「まあ、そうだろうな……これで俺が死んだりしたら、お宅ら三人だってただじゃすまない。俺がアンタらに呼び出されたのはさ、そこらじゅうの奴らが知っている。まあ、ご丁寧に、一年の教室まで来て頂いたんだからな。だから授業が始まる頃には、きっと先生にだって、伝わっているだろうよ……」
 死因が地面への激突だとしても、その前にやられた傷はしっかり判別できるだろう。となれば誰が見たって自殺に至る原因とは……。
「アンタら、三人だわな……」
 そう言って、翔太はニヤッと笑ってみせた。
「俺は殴ってねえ!」
「俺だってそうだ!」
「黙ってろって言ったろう!!」 
 金子と福田のそんな声に、再び荒井の怒鳴り声が響いた。
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