第4章 -  1 ジノ・バネリとマイケル・ジャクソン(2)

文字数 1,264文字

 1 ジノ・バネリとマイケル・ジャクソン(2)
 


 これで後は持ち込んだレコードを聴きながら、天野翔太の登場を待てばいい。
「とにかく、先ずは俺が彼と友達になって、それから二人して、納得して貰えるように説明するってのがいいと思うな……」
 そこで思い付いたのが、部屋にあったレコードのことだった。
 元々達哉は音楽が好きで、ビートルズに目覚めてからは洋楽ばかりを聴きまくった。
 中学二年でハードロックにハマってからは、部屋で大音響にして聴く度にまさみが嫌な顔をする。
「音が大き過ぎるわ。もう少し音量を下げて貰えない?」
 などと何度も言われ、彼はヘッドフォンで朝から晩まで聴くようになった。
 もちろん今でも、その頃よく聴いたミュージシャンのレコードはある。
 しかしそんなの以上に知らないヤツがドッとあって、これは当然、天野翔太が購入したものだろう。全部でザッと二十枚くらいか……どれもこれもがほとんどボーカルなしの音楽なのだ。
 何気なくだが、先日まさみに聞いてみた。
「どう、最近さ、俺の聴いてるのって、いい感じでしょ?」
「そりゃもう、前聴いていたうるさい音楽よりもずっといいわよ。お母さんはね、あなたが録音してくれた〝ジョージ・ベンソン〟が、やっぱり好きだなあ〜」
 ――え? お袋に録音したって?
「ほら、今だって、掛かってるでしょ?」
 まさみはそう言いながら、リビングに置かれたカセットレコーダーに視線を送る。
 それは昔、中学の頃まで達哉が使っていたものだった。そしてそこから、少なくともロックではない柔らかなメロディが流れている。
 ――ジョージ・ベンソン……か……。
 そうして彼は部屋に戻って、ジョージベンソンの〝ブリージン〟を手に取った。
 最初は正直、良くも悪くもないって感じだ。
 耳触りがいい分、特になんら響いても来ない。
 ところが時折、一階に降りると聞き覚えのある旋律が聞こえる。まさみは余程気に入っているらしく、夕食の準備をする時などに必ず同じカセット聴いていた。
 すると不思議なもので、達哉もだんだん好きになる。
 ――ま、たまにボーカルも入ってるしな。
 なんて変な言い訳を心に思い、それでも自らターンテーブルに〝ブリージン〟 を乗せた。
 そうなってからは天野翔太の残したアルバムどれを聴いても、すぐにハマりにハマってしまうのだ。
 部屋に残されたレコードは、天野翔太が好んで聴いていたアルバムだ。そして高校生にとってのLPレコード一枚は、二十一世紀だったあっちの世界と違ってそうそう軽いものじゃない。
 一枚二千円とか二千五百円とかするLPレコードを買うってのは、よっぽどの金持ちとかは別として、LP以外は涙を飲んで我慢するってことになる。
 つまり彼はこの手の音楽がかなりのレベルで気に入って、たった二年間の間にけっこう頑張って買い集めたのだ。と、なれば……、
 ――共通の好みってことで、盛り上がるんじゃないか?
 千尋の家でレコードを聴いていたところに、偶然彼が現れて……なんて機会を作ってしまえば、きっと仲良くなれるに違いない。
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