最終章 – 再生 〜 2014秋(2)

文字数 726文字

 2014秋(2)



 自分の足でしっかりと歩いて入院した順一も、

 それから数ヶ月で見事なまでに痩せ細り、

 見る影もないほどに弱っていく。

 医者に言わせれば、

 もういつ何時最期の瞬間が訪れたとしても、

 おかしくない状況になりかけている......と、いうことなのだ。

 そして、そんなある日のこと。

 佐和子が珍しくひとりで、順一の見舞いへと訪れたのである。

 彼女は相変わらず記憶のないまま、

 それなりに悲しそうな目を順一へと向けている。

 しかし彼は眠ったまま目を覚ますことはなく、

 彼女は5分と経たずに、備え付けの椅子からそっと立ち上がるのだった。

「それじゃあ……また明日、来ますから……」

 最期の時が近い――順一の姿を目にする度に、

 彼女はそんなことを強く感じる。

 そして背中を見せ、立ち去ろうとする佐和子は、

 久しぶりに順一の微かな声を耳にするのであった。

「母さんを、お願い……」

 それはまさに、

 ――それじゃあ……また明日来ますから……

 そんな佐和子の声に、まるで応えるかのように響き聞こえた。

 夢でも見ていたのかも知れない。

 それとも、佐和子の声を唯のものと勘違いしたのであろうか? 

 とにかく、その声は間違いなく、

 順一の口元から発せられていた。

「お母さん?」

 そう言って振り返る佐和子の目に、なぜか順一は映っていなかった。

 声に振り返った瞬間、

 目の前にいきなり、白衣を着た何人かが現れ出ていたのだ。

 ――これって!?

 彼女は目の前にあるものではなく、脳裏に浮かんだ光景を見ていた。

 いきなり現れ出たはっきりとした記憶に、

 佐和子は思わず、現実との境目を見失っていたのである。

 そしてその光景は、間違いなく以前、

 佐和子が目にしていたものだった。
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