第5章 – 崩壊(2)

文字数 652文字

崩壊(2)
 


順一は今から10年前に商社を辞め、

 食品スーパーとしては最大手へと転職を果たしていた。

 そしてさらに2年前、店舗開発部長であった彼に、

 衣料品を含む総合ショッピングセンター建設のプロジェクトが任される。

 食品と生活用品専門の業態から、一気に総合小売へと舵を切る、

 それはまさに社運をかけた大事業であった。

 それからは、毎日が目の回るような忙しさとなる。

 格段に帰りが遅くなり、

 しょっちゅう会社の休憩室に寝泊まりするようになった。

 そしてやっと、プロジェクトが具体的に動き始めた頃、

 その大事件が白日の下に晒されることとなる。

 そこは、建設地として申し分ないところだった。

 東京郊外で交通の便も良く、

 今時あまりに珍しい手つかずの広い土地であったのだ。

 ところが、予定半分くらいの土地買収が済んだところで、

 その先が思うように進まなくなる。
 
 たったひとりの土地所有者が、

 なかなか首を縦に振らないということだった。

 そんななか、プロジェクトでナンバー2であった彼の部下が、

 それから半年間通いつめ、やっとのことで契約に漕ぎ着けるのだ。

 本当であれば、それで全ては解決のはずだった。

 ところがだった。

 契約後、3ヶ月も経った頃、土地所有者の息子だという男から、

 信じられないクレームが入る。

 担当の部下から報告を受けた順一は、

 はじめはとんでもない言い掛かりだとして相手にもしなかった。

 ところが、息子に連れられたその母親に会って、

 受け入れるしかない現実を目の当たりにしたのである。
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