第4章 – 現れた女(17)

文字数 578文字

 現れた女(17)



 結局、薫はその日、夜遅くまで彼の部屋にい続ける。

 飯島が目を覚ます度に、その顔を覗き込み、具合を尋ね続けるのだった。
 
 せっかくの休みなんだからと告げれば、何もすることなどないと言う。

 そして、さらに飯島の本を片手に、

「だからちょっとお借りして、さっきから読ませていただいてます」

 などと返すのであった。

 ――このくらいの年齢が……俺には一番、合っているんだろう。

 彼はこの時、心から素直にそんなことを思った。
 
 そして次の日、飯島が目を覚ました時には、

 すっきりとまではいかないまでも、

 身体の痛みなどは完全になくなっていた。
 
 当然ではあったが、部屋の中に薫の姿はどこにもない。
 
 ただ、彼の枕元に、置き手紙らしき紙切れだけが、

 ポツンと置かれているのだった。

 ――よく、お休みになられていたので、このまま起こさずに失礼します。

 ――また明日の朝、同じ頃、お部屋にお邪魔しますから……

 ――おやすみなさい……。

 彼が慌てて拾い上げると、

 そこには、きれいな文字でそんなことが書かれている。
 
 また同じ頃……それはいったい何時頃、だったのか? 
 
 ――とにかく起きなければ……。

 少なくともパジャマだけは着替えておこうと、

 飯島が立ち上がりかけた時、

 小さなノックが響き、
 
 ドアノブに鍵の差し込まれる音が、

 聞こえてくるのであった。
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