第7章 – 土砂降り 〜 2010年 3月末(8)

文字数 1,106文字

第7章 – 土砂降り 〜 2010年 3月末(8)
「ほら、こんなのが一杯なんだけど、我慢して見ててよ。あ、ここ、クリック
 してくれる?」

 順一を椅子に座らせ、

 自分は立ったままの武が、そう言ってPC画面を指差した。

 そこは久しぶりに入る武の部屋で、
 
 見せたいものとは、ネット上のとあるサイトなのだと言う。
 
 既に順一の視線の先には、驚きの光景が広がっているのであった。

 彼はさほどITに親しみがなく――もちろんパワーポイントやエクセルな
 ど、仕事で必要なことについては充分、使いこなしてはいたが――こんなも
 のを目にするのは、今、この瞬間が初めてだった。

 それは卑猥な動画専門のもので、さらにいくつもの投稿サイトが、
 
 両端に小さなウインドウで表示され、並んでいるのだ。

 順一は言われた通り、武の指し示すウインドウのひとつをクリックする。

 すると、また別のサイトへとジャンプしたようであった。

「このサイト、外人がやってるっていうんで……ここのところずっと話題に
 なってたんだ」

 武のそんな言葉を聞いて、順一は一瞬、金髪の巨乳女を思い浮かべる。

 しかし現実はまるで、想像していたものとは逆であった。
 
 続けて、武の指示するところをクリックすると、
 
 いきなりウインドウ画面が大きくなって、
 
 動画が再生され始めたのである。

 それは東洋人らしき女性を、

 金髪の白人男性が一方的に攻め立てるというものだった。

 しかし画質も荒く、全体的に暗過ぎて、

 細かい部分まではまるで分からない。
 
 たまに撮影者の黒い腕が伸びて、
 
 女の髪を掻き上げたり、股を押し開いたりするのが見える。

 そしてそれが余計に、
 
 この映像の恣意的なニオイをより強いものにしているのであった。

「暗いだろ? でも途中で明るくなるから……でも、嫌だったら……」
 
 嫌だったら――止めてもいいと言うつもりだったのか?

 とにかく武は順一の顔つきを察して、
 
 何度かそんなようなことを言いかけてくるのだった。

「いや、別に大丈夫だけど……これがいったい、何なんだ?」
 
 順一がそう返した途端、画面の映像が明るくシャープに変わった。

 すると一瞬、彼は目の前の光景に目を奪われてしまう。
 
 カメラが捉えている女があまりに可愛らしく、
 
 とてもこんな場面にはそぐわないように感じたからだった。

 そして呆然と見入っている順一に向け、
 
 武はそれまでの淡々とした調子ではなく、突然、熱のこもった声を上げた。

「こいつらなんだ……多分、姉ちゃんをあんな風にしたのは、絶対こいつらな
 んだよ! 」

 ――こいつら……。
 
 ――あんな風に……。

 そんな2つの言葉だけで充分だった。
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