第4章 – 現れた女(7)

文字数 753文字

 現れた女(7)



 そんな彼も焼酎を飲み始めてからは、

 飯島への口調も、すっかり元のものへと戻っているのだった。

 それからしばらく、ふたりは美穂子が帰ってくるまで飲み続ける。
 
 そして美穂子が病院から戻った時には、

 かなり上機嫌になっているのであった。

「なによ! ふたりだけで盛り上がっちゃってるの!? でもいいじゃな
 い!  久しぶりに皆で飲んじゃおうか!」

 リビングに入るなりそう言う美穂子の顔は明るく、

 つい数ヶ月前にあった事件など、まるで嘘のようにも思える。

 しかし実際はそうではないのだ。
 
 飯島が今でも夢に見てしまうほど、

 あの時の美穂子は凄惨な姿であったのだ。

 だから飯島は心から、彼女の回復に感謝したい気持ちになる。
 
 彼女をそんな目に遭わせた男は、何がどうあれ飯島が現れたからこそ、

 あのようなことをしでかすに至ったのだ。

 さらに、もしあの夜、あのまま彼がスナックにい続ければ、

 絶対にあんな事件は起きなかった。
 
 彼はそんなことを思い返し、

 元気になった美穂子を前に、思わず目頭が熱くなっていく。

「飯島ちゃん……なに泣いてるのよ……」
 
 いきなり涙を見せる飯島に、美穂子もなんとも言えない顔を見せる。
 
 そうして震える声で、飯島に向けて呟いた。

 やがて美穂子は両手を口元へと押し当て、

 ゆっくりと飯島へと歩み寄る。

 ソファに座る彼の顔をじっと見つめ、

 その身体を覆い被せるようにして抱きしめていった。

「飯島ちゃん、ありがとうね」
 
 そんな美穂子の声も、既に涙でくぐもっているのだった。

「よし……今夜は盛大にやるぞ! 美穂子! 鮨屋に電話だ!」

 前田は目の前にあったグラスを飲み干し、

 天を仰いでそんなことを言った。 
 
 とにかくそんな前田の一言で、

 その夜の行方が完全に決まってしまった。
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