第10章 – 認 知(13)

文字数 589文字

 認 知(13)



 ――あなたがこの部屋に、きっと戻ってくると信じて……。

 最初のページにはたった1行、きれいな文字で、そう書かれていた。

 そこは本来、書き込まれるべき場所ではなく、

 普通であれば、題名などが印刷されるべきところだ。

 そしてその次のページから、縦書きの紙面一杯に、

 流れるような文字がぎっしりと並んでいる。

 それはまさに、正真正銘、女性であろう誰かの日記帳だった。

「そんな……あり得ない……」

 そしてさらに、次のページを読み始めた順一は、

 もはやそこを訪れた目的など、どうでもよくなってしまうのだった。

 ただただ先を急いで読み進み、

 浮かんだ疑念を消し去りたいと思い続けた。

 ――嘘だ……嘘だ!

 そんな言葉が、何度も何度も頭の中で叫ばれる。

 疑念が決定的な真実へと変わるのは、パラパラと捲ったページの中に、

 身に覚えのある書き込みを発見したからだった。

 ――彼の部屋の真上にちょうど空きがあった。

 ――嬉しい……すぐに契約して、彼のところに報告に行く。

 ――でも、ショックなことが結構あって意気消沈……。

 ――やはり、彼はずっと……。
 
 彼はずっと――その次に書かれた文面を読んで、

 彼はいきなり手にある日記を閉じるのだった。

「嘘だ!」

 そう大きく叫び、日記を手にしたままその部屋を飛び出す。

 靴を履くのももどかしさ一杯に、

 アパートの2階へと駆け上がっていった。
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