第7章 – 土砂降り 〜 2010年 3月末(14)

文字数 923文字

 2010年 3月末(14)
 


 金髪の男は六本木界隈で、そこそこに有名なモデルらしい。

 そんな男のブログのことを、
 
 唯は以前、武へと自慢げに言葉にしていたのだ。

 武はそのブログから、男のフェイスブックへと入り込み、
 
 彼の生活を幾度となく垣間見ていたのだった。

【公開】となっている男のページは、知り合いでなくても簡単に閲覧できる。

 武はiPhoneを取り出し、順一にそんなことを説明していた。

「こいつ、ジョンっていうんだけど、金髪の方のフェイスブックなんだ。今か
 ら、六本木のクラブに行くってアップしてるよ……暢気なもんだな、まった
 く! 」
 
 武なりに腹を立てたのだろう。
 
 病院に向かう途中助手席から、
 
 そんなことを言って苦々しい顔を見せていた。

 初め順一は、武の言うフェイスブックというものが、

 今ひとつピンと来ていなかった。

 ただ、いわゆるブログというものの存在は知っていたから、

「まあ、ブログをもっと簡単にした感じかな? ブログって基本、有名人じゃ
 ない? でもフェイスブックってのはさ、もっと身近で、友達同士で見せ合
 うって気分でできるんだ」
 
 そんな武の言葉で、おおよその雰囲気は理解していたのだった。

「それは……今いる場所とかが、分かるのか?」

「だいたいなら分かるよ……でも、店からアップしてくれば、店の名前が載っ
 てくるだろうから、間違いなく特定できるんだけど」

 店で写真でも撮って投稿してくれば、

 男のいる店の地図までが出てくるのだと言う。

 そして案の定......30分もしないうちに、

 男は店での画像をフェイスブックにアップする。

 自分の顔をどアップにし、

 その頬両側から、ふたりの女に唇を押しつけさせているのだ。

 順一はそんな画像を見せられた瞬間、

 溢れるほどの憎しみが、ふつふつと湧き上がるのを感じた。

 しかしそんな憎しみのお陰で、ジョンという男と相対する覚悟が、

 より強く生まれ出ていたのである。

 彼は武にその意志を伝え、そのまま唯の病室を出て行こうとしていた。

 驚いて何も言えないままの武へ、彼はふと思い立ち、振り返る。

「あいつらは、日本語が話せるのか?」

 そんなことを言って、彼は不安げな顔を見せるのだった。
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