第6章 – 決意 〜 2012年秋(2)

文字数 485文字

 2012年秋(2)



 由香はやはり昨日、飯島へと電話していたのだと言った。

 しかし熱にうなされていた飯島は、その着信音に気がつかない。

 きっと薫がいたのだとしても、受話器を取ろうとはしないはずだった。

 だから由香は、飯島が急用で、

 どこかへ出掛けたのだと思っていたらしい。

 ところが今朝、弁当屋へと出勤した矢先、

 前田から飯島の発熱を知らされる。

 それはいざという時のために、

 薫がスナックの手伝いを前田に頼んでいたからのことであった。

 由香はそんな事実を知って、

 開店前の仕込みだけを終わらせ、慌ててアパートまでやってくる。

 そして、思いもしない薫の登場に驚き、

 けれど表向きは、すぐに忘れたように振舞うのだった。

 しかし実際心の中では、さまざまな感情が錯綜していたに違いない。

 ふと、押し黙り考え込むような顔つきを、

 由香はそれから何度も見せた。

 そんな由香の態度を目にしてやっと、

 飯島は由香との関係を、しっかり終わらせようと心に決める。

 ――もうあんないい娘を、振り回すのは止めにしよう。

 そう心に誓い、彼はその夜、

 スナックの閉店後に薫に向けて告げたのだった。
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