第3章 – 事情 ・ 2012年1月(7)

文字数 936文字

 2012年1月(7)



「俺は、まる2日間も気がつかなかった。こんなになってるってのに、何にも
 知らずに……くそっ! 蒲団を、捲れば良かった、さっさと起きろって、い
 つもならきっと、そうしてただろうに……」

 そう言って涙を見せる前田は、飯島へさらなる事実をも告げていた。

「俺が調べてくれって言ったんだ。誰だって、もしかしたらって思うだろ!? 
 それであんなに殴って……あんなになるまで、殴りやがって……」

 そう言って前田は、強い憤りに身体を震わせるのだった。

 結果、美穂子の身体から、
 
 ここ数日のものであろう微量の精液が検出されたのだという。

 殴っただけじゃない――そんなことを知らない由香は、

 どうしても見舞いに行くと言って聞かないのだった。

「女性の手が必要になることだってあるじゃないですか? 確か、美穂子さん
 身寄りないはずだし……絶対に女性がいた方が助かりますって」

 言われてみれば、確かにそんなこともあるのだろう。
 
 飯島は素直にそう思って、

 由香と一緒に病院を訪れることにしたのであった。


                   *


 病室の扉をノックする由香。

 しかし中からの返事はない。

 そして突然、由香が振り返り囁いたのである。

「美穂子さんが泣いてる! 」

 そんな囁きに躊躇している間に、由香は静かに扉を開けていった。

 するとまさに、由香の言う通りなのだ。

 美穂子が腫れ上がった顔をくしゃくしゃにして、声を上げて泣いている。

 飯島の姿を認めるや否や、いきなりの大声を上げるのであった。

「お願い! 前田を止めて! あの人を殺しちゃう!」

 一瞬、呆気に取られた飯島が、その意味すべてを知った時、

 まず思い浮かべたのは怒りに身悶えする前田の姿だった。
 
 そしてそんな叫びから10数分後、彼はタクシーへと乗り込むこととなる。

 事件はやはりあの夜、飯島が店を出たあとに起こっていた。

 ひとり残った美穂子の心が落ち着きかけた頃、

 いきなりスナックの扉が開けられる。
 
 そこに立っていたのは、

 2年前まで店のカウンターを任されていた男、繁田守だった。

 ベロンベロンに酔っていることは、その顔を見ればすぐに分かった。

 だから彼女は、

 できるだけ静かな言葉を投げかけていたのだ。
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