第11章 – 2月某日(9)

文字数 416文字

 2月某日(9)



 しかし2日経っても3日待っても、彼が戻ってくることはなかった。

 ――記憶が戻って、きっと、東京に戻ってしまったんだ……

 そんな確信は、彼がまるで佐和子から逃げるように、

 アパートから消え去っていたことからも明らかだった。

 そして4日目の夜、彼女は前田へと電話し、

 飯島がいなくなったという事実と、自分も辞めさせて欲しい旨を伝える。

 とにかく東京に戻って、頭でもなんでも下げて許しを乞おう。

 それでダメであれば、それはもう仕方がないことなのだ。

 そんな決心がついて、

 佐和子は前田と美穂子の元へと向かったのである。

 そしてもし、スナックの扉を出たところで向き直り、

 頭を下げようなどと思わなければ、

 彼女は間違いなく軽トラに轢き殺されていただろう。

「美穂子! 救急車だ! 救急車を呼んでくれ!」

 そんな前田の声は、順一がやっと駅のホームに到着し、

 息を切らしながら左右を見回している頃まさに、叫ばれていたのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み