第5章 – 崩壊(12)

文字数 738文字

 崩壊(12)



 そしてちょうど同じ頃、佐和子も同様に、家族のことを考えていた。

 順一の海外赴任後について、さまざまな思いを巡らせていたのである。

 ――4月からは武を、成城から学校へ通わそう。
   家庭教師も付けて徹底的に勉強させれば、
   変なことに興味を持たなくなるに決まってる。

 ――唯は嫌がるかも知れないわね……でもそうなら、唯は家に残ったってい
   いわ。
   わたしの方が、実家と交互に行き来すればいいんだから。

 ――とにかく、もうあの人の言うことなんてどうだっていい……
   結果こんなことになって、だから、あれだけ言ったのに……。

 そして、さっさと海外でもどこへでも行けばいいと、

 佐和子は心からそう思っていた。

 まだ、父、武彦にはそのことを伝えてはいなかったが、

 言えばこう返してくるに決まっているのだ。

 ――さっさとここに戻ってくるんだ……

 だから佐和子はすべてのことを、成城の家をベースに考えていた。

「なんだか怖い顔してますよ……」

 ふと聞こえたその声は、

 天井を見つめる佐和子の耳元から響いていた。

「ごめんなさい……でもね、こっちにはいろいろとあるのよ。あなたには、決
 して理解できない世界なんだから」

 佐和子は天井を見つめたまま、
 
 しかし幾分、口元を緩めてそんなことを言って返す。

「まだ、忘れることができませんか? それはいかんな……」
 
 そう言って、佐和子の顔を覗き込むのは、
 
 彼女と同じくらいの年齢であろう中年の男だった。

 そして男はそのまま、佐和子の首筋へと唇を寄せていく。

 さっき果てたばかりだというのに、

 男はもう既にその気になっているようであった。

 佐和子もそんな男の行為に、

 このまま、泊まっていってしまおうかとも思い始めるのだった。
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