第110話 彼岸絵(1)

文字数 638文字

 次兄の墓参を済ませてひさしぶりに故郷へ向かう。
見慣れた風景だが土手や河原に任を終えた芒が軽く揺れていた。
やはり芒は穂が金色に輝く時が最高で、木枯らしの吹く中に凛として
立つ芒に、お前も老いたかと河原の枯れ芒の歌を送ることがあった。
芒に心通わしているのである。

 道草をして枯れ果てた屍の芒に近よってみると、新しい芽がたくさん
勢いよく出ていた。昨秋刈り取られた株後からは小さな芽が覗いたところである。
親に保護された新芽はどんどん伸びてゆく。植物も親は子を保護するのである。
新しい発見に感動している。しかし、風薫る頃になると親のない芒も、
自力で成長して忖度はなくなる。そのころ芒の屍は土に帰りはじまる。

 近年寄せ墓(先祖代々墓)が多くなり、故郷の墓地は、明るく整然となった。
 墓参ですれ違う人たちは、どちらからともなく挨拶をする。
まず旧姓でかたると「ああ00さんのおばさんですか」
「kさんの妹さん?」一瞬の立ち話に、お互いに心は昔に帰ってゆく。
彼岸や盆の墓参の時は、こうして懐かしい人に会うことがある。
 
 彼岸絵のこの時ばかりは墓所で、逝った顔を一人づつ思い出していた。

 墓地から故郷の家がよく見える。12月に入って屋敷を覆っていた草木
を切り払ったのだ。東山も、西山も丸坊主になったら、
屋敷が家が浮き上がって丸見えになった。兄が健在の時の様相になった。
こんなに嬉しいことは久しくない。
坊主山には、蕨が生えるだろうが、もう山に登る元気はない。
 今日の日を故人に感謝しながら帰途に着く。



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