第117話 免許証更新

文字数 707文字

 車を諦めて一年余り不自由で腹が立つこといく度か。
今ではバス停でバスを普通に待っている。ずいぶんタクシーを使わなくなった。
諦めが身についたのである。

 免許更新手続きの案内が来た。車もないのに証はいらないなずだが、
車を辞めて羽根をもがれた「かわいい小鳥」のようになっていたのに証は離さない。
子供に内緒で今日、免許更新をした。三年前は合格は点数だった。今は
点数はつけなくなったったが、記憶も、実地も遜色なく、合格した。
齢90にして条件なしにゴールドの免許更新を果たした。
たぶん、もう乗ることはないだろうと思うけど、寂しくて手放せない。
 焼き場まで持ってゆこうと思っている。
 行ったらあの顔、この顔にあえるだろうか。

 免許証は取ったものの、乗る車がない。六十数年の昔。ほとんどの若者は
車は持っていなかった。そこで、自動車学校の仲間4〜5人が組んで、
レンタカーを借りた。メーターを見ながら運転を交代したものだ。
奈良へも、京都へも足を伸ばした。レンタカーの割り勘代に事欠き
始めたので私は一番に組を離れた。あの連中の中に酒蔵の御曹司がいた。
三十歳を大分、過ぎたおじさんもいた。今頃、皆んなどうしているのだろう?
十年も経ていただろうか 和歌山のお嬢さんに連絡したが、
何故か所在が掴めなかった。

車のセールスをしている時に営業に行きたかったが、
思案しただけで、売り込みには行かなかった。行ったら青春の砂城が
跡形も無くなりそうに思った。楽しかった。夢があった。あそび果たして、
いざ働いて、生きて行くことの重大さを知った。少し遅かったが、
若さで乗り切れた。若いこと、それだけで輝いていた。
 人生に悔いあり。しかし、我が青春に悔いはない。




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