第43話 やがて死ぬんだからを読んで

文字数 1,104文字

 年を取れば誰だって退化する鈍く、緩く、くどく、ケチくさく、
愚痴っぽくなる。そして「どうせ死ぬんだからになる」そのくせ好奇心
が強く、若いと言われたがる。これが爺さん婆さんの現実だ。
定年後の人生に光を当てた内館牧子の言葉である。

 小気味好い書き出し。この一冊の中に「すぐ死ぬんだから」が何回
登場したことだろう。その度に私は溜飲を下げほくそ笑んだ。

 だが内館だから笑い流され許されるのでのであって私が、これだけ
書いたら「くどいぞ」と失笑を買うだろう。

 ある日、10歳も年上に見られたハナ婆さんは、心機一転若造になり
おしゃれになってゆく。若く見られてご満悦のハナ婆さんは、
息子の嫁の格好が、貧相に見え気に入らない。他は言うことなしの暮らし。

 老夫婦仲良く老いを共有している。
「二人して生きてきたのは悪くないね。夫婦って半端な縁じゃあないよね」
「まあな。ハナ、何があっても平気で生きていような」
「うん」

55年も共に歩いてきた男と女が、夕日を受けて穏やかに話しあっている。
見た目も、老夫婦も平和で幸せである。
このごろ10歳も若く見られ有頂天になり、心ブギブギのハナ婆さん。
連れ合いの浮気など夢のまた夢。

 遺言により発覚した第2夫人と隠し子。
心中穏やかでない様を「ぶん殴ってやる」とか「一発かましてやる」とかの表現
に、胸をスカットさせ昂っている自分がいる。舞台は急展開してゆく。

 亡夫に愛のなくなったハナ婆さんは。亡夫とか連れ合いとか呼ぶことはない。
「連れ」でよい。と知人は口を揃えて、ハナ婆さんに同感。
許せないハナ婆さんは「死後離婚」を真剣に考えている。
 趣味の会でこの本が話題になり「死後離婚」は賛否両論あった。

 あと書きにも
「男も女もさ、年齢を取れば取るほど見た目に差が出るよな。
放っとくと、どんどんヤバくなるんじゃね」
 おそらく、やばい高齢者の多くは自分がやばい範疇にいるとに
気づいていない。注意すれば、
「この歳になったら楽なのが1番」であり
「どうせすぐ死ぬんだから」と続くはずだ。「すぐ死ぬんだから」
というセリフは、高齢者にとって免罪符である。
「セルフネグレクト」することなく品格のある衰退を遂げる。それは
「美しく老いる考え方に繋がりはしないかと筆者は綴っている。

 小気味良さの中に生と死の課題には本音が全面に溢れ、また深く考え
させられる品格の一語であった。

 未だか、もうか傘寿。没するまでの道のりは誰にもわからない。
が、人生の旅は終わりに近づいていることだけは確かである。
 今日一日を前向きに、明るく、愚痴らずに生きよう。
明日は、あしたの風が吹き、明日の太陽が昇る。
 醜さが許されるうちに虹の橋を渡ろう。



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