第39  あれから1カ月

文字数 783文字

 ケアハウスに入って1カ月が経った。
その間に3泊と4泊と、2回、日帰りをした。
十人十色で全然、帰らない人もいるらしい。

 こんなはずではなかったが、思考と現実はギャップが
大きすぎた。
 前にも書いたが入牢している平均年齢は、87歳で最高齢は
102歳である。施設はコロナ禍の中であるから、密に格別
配慮しているようである。

 はっきり言えば挨拶以外は、話しをしないようにとのことである。
新入りの私は自己紹介をしたから、みんなはトラ姫と承知した。
が、私は、相手を誰も知らない。

 無理に知ることもない。4軒隣までは名前と顔が一致している。
食事の時以外、顔を合わすことはない。それでいいのだ。

 朝食は7〜8時の間に自由だ。365日これは決定事項である。
土日が欲しい。1日のカロリー計算をしているからと許可が
なかなか降りなかった。が、週2日朝飯を休む了解を取り付けた。

 朝食のない朝は浮世の土日である。ゆっくり起きて自由な時間を
楽しむ。毎日自由であるはずが、食事の時間の拘束とシステムに、
異を感じている。

 私は人間の尊厳を感じるほどに食事の待ち時間に慄いている。
それは、犬が「お預け」されている情景を連想するからである。
 
 1つのテーブルで3〜4人が深々とマスクをして、無言で運ばれて
くる前後左右と、同じ食事をじっと待つ。労せずして頂くのだから、
大いに感謝するべきである。それは理屈であって、私は堪らない。

 和が感じられない。散り散りである。助け合うこともない。
「一つ屋根の下に集うご縁に感謝します」と入所の挨拶はしたけれど
このまま居続けたら、頭がおかしくなるような気がする。

 入所からの手記を読んで驚いている。心がだんだん傾いてゆく。
それに加えて、息子がカウントしている。
 
 我儘で方がつく問題ではない。早まったと後悔している。

 何もかもコロナが悪いのか。そればかりではないだろう。



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