第34話 農耕民族

文字数 677文字

 自分の体に流れる農耕民族血を好まなかった昔。
しかし、歳を重ねるごとに、その血に滲み出る。ではない迸るのだ。草木が愛しい。
畑に出ると故郷の懐に包まれたように安らぐ。ましてや自分で作っている花や野菜は
言うに及ばず、分身のような気になり、話し掛けるトーンが○○との違いに驚く。

 命の続く限り草木と暮らそう。素晴らしい余生ではないかと自負していた。 
ところがである。両膝の手術、持病の腰痛、八十肩?と歳に比例して蝕まれてゆく。

 何といっても声が大きいので周りの人は異口同音に「お元気ですね」と言う。
弱々しい声が少しは可愛げもあるかと意識して小さい声で話し出すのだが、いつの間にか
声は凛々としてくる。「ここだけの内緒の話」もすぐ内緒出なくなる。

 食事も然り、昭和一桁に生まれた強者は、何を食べても美味しい。カロリーは度外視。
いいも、わるいも、ない欲しいものを食べていたら肥満し、体が悲鳴を上げた。
 考えざるを得なくなって今は「腹は八分目」にした。ところが、最近は「腹六分目」と
言うから、論外と言うほかない。挑戦で記述した当初の夢は萎んだが志は細々と続いている。

 日本人女性の平均寿命をはるかに越えて、更に日々更新している。限られた現世、後どの
くらい生きられるのであろうか。

 もう十分生きたではないかと思う今「欲しいようへお食べ」と「摂生して健康で長生きする」
と自分の中で両極端が綱引きしている。

 台風状況を聞き、大根の間引きを小さい畑に入った。朝日を浴びて草話の露が光っている。
 ちょっと触るとポロポロと落ちた。
 草から花から、露の玉から今日1日の英気を貰った。


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