第116話 最後の断捨離

文字数 609文字

 1年8か月振りに断捨離を終えた。
終えたと思うが、マンションは大賑わいになっている。
前の家から自分のものを引き越し終えたのだ。
断捨離の初めは写真であった。次に旅行の案内からパンフレットは
30年も整理せずに箱詰めにしてあった。暇になったら年代を追って
整理しようと。
毎日が日曜日なのに根のいる作業はなかなか思いつけない。

 マンションに越しても、ここが終の住処とは思い切れない
何かがあって、とりあえず必需品だけ引っ越していたのだ。
五月、それも30度近い今日、引き越しは終わった。

 20年住み慣れたあばらや。それでも城であった。
ベットとテレビとクーラーは残した。伽藍堂になった押し入れ、
「あなたたちの居る日にまた来て押し入れ掃除するけん、そのままにしておいて」 
と言い残して、心も提げて家を出た。

 狭いマンションはいっぱいになった。
いつまで生きるつもりか。自分で言いながら片付けた。
小さい本棚には、山野草の本、上梓した時にいただいた俳句の本、易学書、
宮都阿波に纏わる古事記。この古事記は師が何人も変わった。難しくて終に
理解できず、人には説明もできないままに終わるだろう。

 夫が生きていたら、とうとうわしの蔵書は何もなくなくた……。
 賢治蔵書の角印が出てきた。それは引き出しに入れた。

 昨日、ある会で恍惚の人が今、人気上昇中。また読んだけど、
今度は身近に感じるものがあってよかったよ。

 だって私は捨てたばかりだもの。誰か貸して。



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