第59話 ふるさと

文字数 522文字

 過去に何回となく故郷を書いている。
どこかの片隅から、私の書いた故郷が出てくるかもと
思うと心鈍るが、ここ二〜三年は書いていないように思う。
 朝日が丸の峰高く、園瀬の川の水清し……。校歌で有る。
高い峰を仰ぎ清流で戯れ魚をとって食べ、麦飯や芋を、常食
とした。川には鰻も渡り蟹や鮎も生息していた。雑魚はもち
ろん、ジンゾクも泳いでいた。ジンゾクは「ごろ」で取った。
「ごろ」は貝殻に穴を開け棕櫚縄で繋いだものを川に渡して
両端から引き寄せて大きな包みに追い込んでゆくのだ。
 
 両端を父と兄が、弟と私が真ん中で引きやすいように小石を
のぞいたり、綱から逃げないように守備を受け持った。

 父が大包を引き上げる。8つの目が大包みに集中する一瞬。
ジンゾクもドジョウもえびも跳ねていた。3回もするとバケツ
に半分も取れる。よく洗い、醤油を振りかける。どうしてなの
「こうするとジンゾクがびっくりして口を開け、砂を吐き出すの」
誰が考えたか生活の知恵だ感心したものだ。

 少しじゃりづいて小骨もそのままだったけど「ジンゾク丼」は
夏1回きりの我が家のご馳走だった。

 この時ばかりは縦割りでなく同志であったように思う。
 同志の父も兄も素敵だった。
 喧嘩の絶えなかった弟も同志だった。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み