第112話 彼岸絵 (2)

文字数 726文字

 中日には1日早いが好天に恵まれた20日。
二つの故郷の墓参を終えた。
 故郷の友から、ささげのぼたもちを作るからお出でと誘われいた。
二つ返事で、約束をしてこの日を待った。
藁草履の項で既に紹介済みの彼女は2級先輩である。
父母の墓参の後、弟に彼女の家まで送って貰った。

 20メートルはあるだろうと覚える長い綱に繋ながれた番犬に啼きつかれた。
「クマと呼んでやってそしたら啼き止む」と彼女。
その通りクマはピタッと啼きやんだ。
 
注文して作って持っていった遊山弁当は広げたまゝ私は、ささげのぼたもちばかり
食べていた。小豆と違って色は黒くて光沢とクセがあるササゲ。
 ぼた餅はササゲでと育てられたから、祖母の味のする大きなぼた餅を4個も
平らげた。

二人には、新しい日常も、夢のある会話もない。私が、家を出るまでは、
土いじりをしていて、季節の野菜など、栽培していた。根っからの農耕民族は、
土とともにある老後を楽しんだものだ。当たり前、だった土いじりが突然できなくなった。
 子や孫のことを話す様に胡瓜が大きくなった。トマトが色づいたと、
共通の話題はいくらでもあったが、今は、思い出話だけになった。
侘しいとは言いたくないが、無性に心に何かが刺す。

 それでもワッハッハ。アッハッハ。腹から笑った。 
呼んでくれたタクシーをお断りして、
持ちきれないほどの故郷の幸を持って路線バスで帰った。
田舎のバスは停留所でなくても、手を挙げたら止まってくれた。
何という、おおらかな路線バスだろう。

 水嵩の減った故郷の川も路傍の3分先の桜も、バスの窓から
ゆっくり眺めることができた。

 今日のよき日に感謝あるのみ。

 彼女と別れる時、生きてまた会いましょう。
別れの言葉を思い出して夜が過ぎても昂っていた。





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