第29話 つなぐ命

文字数 757文字

 コロナ禍の昼下がりのある日、若い友より電話あり。
「おっかさんサナギが5匹、日に日に育っていくわ」
「へーこの間も話していたけどあれからずうっと」
「いいえ、あの時のは孵化して飛び立ったわ」
「そしたら次の」
「そうよ聞くところによると蝶は年に4回産卵するらしいの」
「へー私は菜の花に遊ぶ蝶くらいしか知らない。夏、伴侶を得て
秋ごろ産卵するものと、漠然と思っていたわ」
「ところがまたカラスがサナギを狙ってくる。タオルを振って追っ払って
いるけど逃げないの」
「石でも投げないとそら逃げないわ。一発命中したらもう来ないよ」
とは言ったものの、私は命中なんかしたことがない。その上、飛び立つ時
「アホウ、アホウ」と人を馬鹿にしてカラスは少しだけ移動するのだ。
馬鹿にされたと躍起になり2発目の石も、3発目の礫もカラスには及ばず
阿呆丸出しで敗北する面目ない記憶がよみがえる。

「今朝見たら葉っぱでくるりと身を包んでいる。あれはどうなったの」?
「分からないけど落とし文といって、オトシブミ科の昆虫かもよ」
「あれは蝶の昆虫と思うわ」

 蝶の卵が産み落とされたところは、10年も前に母親から譲り受けた
「ゆこうの木」だそうだ。2年前に500メートル離れたマンションに
転居。「ゆこうの鉢」も引き越しベランダで育てているという。
 引き越した後も、同じ木に産卵に来るから、まことに不思議。
 幼虫は細い糸のようなものでぶら下がり時期が来たら地に降りて
サナギになり安定感のあるところで蝶になる。
蝶になると半日ほど羽根を乾かせてから飛び立つ、とも言う。

 蝶の一生は10日から半年と種類によって異なるらしい。
飛び立って何日かして古巣に戻り産卵をするというのだ。

 「親から子へ、子から孫へと短い命をつなげている」
 「転生というか輪廻」というか命の不思議をかんじている。







ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み