第86話 大型連休

文字数 869文字

「GMはどこか行くんで」 
「人の波見に行くようなものだからどこへも行かん」 
「だったら3日、4日を除いたら後は家に居るから戻ってきい」
「ありがとう。この前植えた野菜も気になるし5日に帰るわ」

 年代物のミシンはみどり庵(小屋)に置いてあるので更生したい
ものを用意して私の第2の故郷へ帰った。
 
 トマトが大きく育っていた。にんじんも綺麗に発芽していたし、三度
豆も順調。胡瓜が少し成長が悪いようだ。が、……。
 主の交代した畑の草花は、そんなの関係なく季節が来れば次々と目を出し
花をつけている。嬉しくなって、ひい、ふう、みいと、
花の種類を指折り数えている。
道ゆく人が綺麗ねと、立ち止まる。夏立つ日の午後である。
 
 よしよし。水が程よく行き渡っている様子。
 
 彼女と二人で新しくゴーヤを植えマルチをかけた。

 「好きこそものの上手なれ」と言うが、彼女も好きなのだろう。
「土いじりは初めて」と、いとも楽しそうによく働く。

 70年も昔の縞の着物を解いて洗いは貼りをすませてある。
ひっぱりとモンペに縫うた。目が悪いので黒いものはどうもうまく
できない。テンポも遅いし、仕上がりも、甲乙丙で採点すると丁だ。

 それでも針を持つ度、祖母が必須の様に言って習はしてくれたお陰で
傘寿がきてもこうして縫い物ができる。ばあさんありがとう。と祖母を偲ぶ。

ボーットして暮らす日はほとんど無い。探偵小説を読むか、余った時間は
犯人を追いかけている。有名、無名の著者の多いのに驚いている。
または裁縫するか、
何か書くか。今年は何処へも応募しなかった。
昼間は、ほとんどTVは観ない。
 
 働き通した祖母が、働くことを子供心に叩き込んだ延長で、悲しいかな
じっと、して、ボーットしていると罪悪感に似たものを心身が感じるのだ。

 故郷で一泊して帰った。今は、こここそ我が家。
 窓辺もベランダもアヤメと紫蘭が共演していて、とても綺麗。
期待していなかった、デンドロが大小2本咲き出した。
 薫風が吹き抜けてゆく。これでいいのだ。
 小さい幸せを感じている。
 花を見ながら季節遅れの藤の茶碗でお茶を啜る。







 


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