第74話 故郷を読んで

文字数 1,301文字

 色丹半島の付け根に位置する仁木町。
この町は阿波より移住の仁木竹吉の姓からなる。
結論から始まったおこりの舞台は、、四国三郎の
吉野川からなる。吉野川の中洲にあった粟嶋。
ここは川の氾濫によって肥沃な土が運ばれてくる
ため、藍、稲、麦、芋などが栽培されていた。
ここに住む人達は、川に頼り川に苦しめらていた。
先祖代々そんな暮らしをしてきたと知る。

 4日前から降り続いた雨は、濁流となって中洲
にある村をまた、襲った。
 川の様子を見にきていた利兵衛爺は、
「すぐ半鐘の鐘を鳴らせ!水がくるぞー」と叫ぶ。
豊吉が無言で駆ける様子が目に浮かぶ。
 いくら半鐘を鳴らしても非難する高台はない。 
濁流は農作物を流し、怒涛の如く土も流す。
 竹吉は淡路島へ勤めに出ていたが、稲田屋敷に
騒動が起き粟嶋へ帰ってきた。竹吉の家は貧しくは
なく、家は高台にあった。
しかし、竹吉はこの村の人々を救うため北海道の
開拓を夢見ていた。というよりどうしても島民の暮
らしを救いたかったのだ。

「竹吉さんは貧乏でもないのにどうして北海道の開拓なんだ」
竹吉のほとばしる心情は村人には理解し難いものだった。
 竹吉は不思議がる村人を神社に集めた様子など、
貴方、「見てきたの」と言いたいほど、きめ細かく、納得の
いく描写に脱帽している。
 移住を決心した根源や、揺れ動く島民の様子は悲しいまでに
克明に描かれているが、陰は感じない。それは、竹吉の人間性
によるものであろう。史実に基づいたであろう跡が偲ばれる。

 竹吉は、後を戸長(細田)に委ねて北海の地へ一人で乗り込ん
でいった。後に続く者のあることを信じて。

 竹吉の女房役を果たした戸長との手紙を軸に無理なく構成された
手腕や連携の巧みさ、阿波弁の会話も身近なものにしてくれた。
 利兵衛爺と豊吉の脇役にも近しいものを覚える。
「よう聞け、わしが大事にしたいのは、村じゃあなくて人だ。お前たちだ」
戸長のこの言葉に離郷を決めた全てが包括されている。と切実に感じる。
戸長の胸の内の苦悩が伝わってくる。

 やがて村人は、この中洲が遊水池になる計画を知る。
「遊水池ってそれなんじゃ」?対岸の村を守るため中洲を犠牲にしようという
のである。島民の人権を無視したこの計画も離郷に拍車をかけた感は否めない。

 米、味噌、その他、人間並の食生活が保障される。米は高根の花だった村人に
とって1日、成人1人につき7合5勺の支給米は魅力があったろうと察する。

「一戸当たり3町歩だぞ」一呼吸してから起こったという地鳴りのような歓声。
「それならいきなり地主様じゃあねえか」
この地主様と発した島民の心の叫びが、農耕民族の血を引く私の胸に激しく響いた。
「喜ぶのはまだ早い。原野の松や檜を伐り、畑にするのだ。その上、厳しい寒さだ。
わかっとるか」
「わかっとる。儂らたちが、どんなに働くか戸長も知っているだろう」

 人間の尊厳を追求した先駆者と地主への可能性に賭けた男たちの夢は
ここに交わった。正念場の臨場感がひしひしと伝わってくる。

 あの美味しいトウモロコシの発祥は、利兵衛爺の持って行った種子かも
しれない。

 さらば故郷。
 北限の新天地の先駆者たちに万感を込めて拍手を送る。




















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