第127話 九十一歳のつぶやき(1)

文字数 972文字

 膝が曲がらない上に腹がまがって(邪魔)足の爪が切れない。
ここ何年かは、娘と会う度、まず足の爪切りをしてもらうことが恒例になっていた。
しかし、最近皮膚科で爪を切ってくれることを知った。爪を伸ばしていると靴下も弱いし、
伸び過ぎて巻き爪になり始めた。爪切りに行きたいが、出不精になり、巣ごもりしていた。
 そんな時センターで爪切りをしてくれることを知ったが、そこまで甘えたくないが、
爪、爪と夢にまで爪が出てくる。
 思い切って今日皮膚科で爪を切ってもらった。ヤスリまでかけてもらって足の爪だけは
一級品になった?卓上の蟹が足をもがれるように次々と己のことができなくなってゆく。
ほんまに達者なのは口ばっかりだが、諦める他ない。

 弟の嫁、義妹と話していたら、「義姉さん、私のこと案じてくれて父ちゃんを戒め、
怒ってくれていることはよくわかるけど、怒る代わりに褒めてあげて、だんだん子供に帰って
ゆくから褒められるのって嬉しいのよ」
「そうよなぁ、丸っ切り母を知らず、懐の暖かさも知らず、男だから寂しいともいえず、
強がって生きてきたのだ。この頃、弟の心の闇を垣間見る思いがするわ。よっしゃ。
これから褒めてみるわ」
義妹の正論に殴られた思いがする。脳の髄まで届いた褒めるという言葉を咀嚼している。
そうだった。「褒めて育てる大切さを忘却仕っていた」のだ。人間、年齢に関係なく褒め
られるのって嬉しいものだ。
 祖母二人でしたためたように、褒めて育てる祖母と、怒って育てる祖母がいた。私は
怒って育てる祖母の影響を受け子供たちを怒って育てた。「忙しくてそれどころではなかった」
とは自己弁護であって、私が間違っていたと今も悔いている。娘は自己主張が強く反抗期もはっきりしていたから、ハシカにかかったように治るとすぐあっけらかんとした。しかし息子たちは、反抗期もはっきりしない、あれは心に闇を秘めているのではないか。遠慮がちである。そして
「おかんは強い。弱者の心はわからん」と曰う。「何を言う。あのどん底をしらぬくせに」
心で反発している。
 表現力が豊かな人間でも、心の中は、言葉にして初めて理解し合えるもので、言葉無くして、
心を知ることは憶測でしかない。阿吽の呼吸といえども不確かである。目は口ほどに物を言う
といえども、言葉には勝てない。素直な言葉こそ平和をもたらす。とおもうのだが?









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