第46話 やっぱり駄目か(3)

文字数 772文字

 10月31日。いよいよ引き上げる日の朝。
込み上げるものを抑えて、最後の朝食を取る。完食した。

 第3の人生などと言って、それなりの明日を空想したから
あれも、これもと持ち込んで、その分引き上げに苦労した。

 息子夫婦と職人さんがトラックで来てくれ、10時に始めて、
そのまま次の住処へ移動し、14時には引き越し完了した。
私は、小さい鞄を持ってウロウロしただけだった。
 
 2カ月に2度引き越し、したことになる。荷物の整理はできて
いないまま、その夜は、荷物の中で伸び伸びと寝た。

 よく眠った。カーテンの隙間から朝日が差し込んできた。
公道沿いに建つ一部4Fと8FのL型の賃貸マンション。4Fの
角部屋の2LDKが、今度こそ私の城。東、南、北に窓があり、
11月の風が吹き抜けてゆく。
180度の展望。天気の良い日は故郷の風車も見ることができて、
大いに満足している。

 分相応と言うけれど、分不相応でも良い。いつまで生きられると
いうのだろうか。それは誰もわからない。昔の人はお迎えがくると
いっていたが、今しばらく、来世の父母には逢いたくない。
 
 私は今、最高に生きることに喜びを感じている。低い山だが
私にとっては山の頂に立っている。申し訳ないほど快適な日々。
夢なら覚めないで。

 潮に満ち引きがあるように、また引き潮が来るだろう。
その時はその時。満ち足りたこころのまま、旅立てば、永遠に
幸せが続くことを信じていよう。

 衣食住と言うけれど、衣は流行に関係なく着古したので十分だ。
食は、腹7分目、たまに満腹すれば良い。住こそ大事でないかと、
今頃になって気がつく。太陽光、空気、見晴らしは、衣食に先立つ
思いひとしおである。
 
理想の空間に私は今、身を置いている。 
いつおさらばしても思い残すことはない。我が人生に乾杯しよう。
そして支えてくれた沢山の人に、心を込めてありがとう。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み