第36話 尊厳死に思う(1)

文字数 517文字

 父は脳軟化症で倒れた。昭和33年のことだった。
安静に、それ以上当時の医術では施す術がなかった。無常に月日は流れた。
発症以来父の脳は機能していなかった感否めない。三年後に逝った。
 祖母、兄たち、夫の旅立ちを見送った。旅立ちは筆舌に尽くせぬもの。
それぞれの旅支度を見るにつけ自分の最期を脳裏に描いてみた。

 いたずらに命を長らえるだけの延命治療は断る。意識もないのに胃ろう
したり、何本ものチューブに繋がれて生かされるのも断る。
 ならばどうしたいのか。伝えるため思いを書いた。それでも不安であった。

 どうせ一度は行かねばならぬひとり旅。その時は苦しまずに逝きたいと
安楽死思考が、強くなっていった。

 平成5年5月「日本尊厳死協会」に入会した。当初から会員の増減はあまり
ないようだ。入会した分、退会が出るから、それは自然の摂理だ。
尊厳死と安楽死の違うことも知った。8年に支部もできた。お世話になるのは、
まだまだ先のことだと考えていたが、この3○年近い、年月の流れは早かった。

 雲も水も流れを繰り返し再生を果たしている。が、己はまだ生き生かされて
いる。いま絶えず脳裏に浮かぶのは尊厳死のことである。
 死にたくはないが、果つ時は苦しまずに死にたい。



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