第57話 正月のある日

文字数 652文字

 四季がなくなると杞憂したが、心配ない冬は冬で寒い。
暑さよりも寒さが身に応えるように近年は感じる。
 正月に古巣へ帰ったら息子の家は石油ストーブで暖をとって
いて、燃える炎の色が得もいえぬ安らぎを醸し出していた。 
 お餅を焼いてもこんがりやけるし、焔に癒やされた。

 正月2日息子たちはでかけた。
花畑の隅の私の小屋はすっぽり太陽に包まれている。
ここしばらく炭を起こすこともなかったが、炭火を起こそう。
 新聞を丸めて火をつけ、使い捨ての割ばしに転火させたら消し炭を
入れる。頃を見て炭を加え、竹の火吹の筒で風を送る。
生き物のように火は火力を増してきた。
 
 この小屋は昨年リニューアルしたばかりで、使っていない。花畑には
何もなく枯れた菊があるのみで、、借景とはいえないが、釜をかけた。
 静かだ。湯の沸く音のみ聞こえる。
お茶をたてる用意ができていないので、煎茶を飲む。お茶受けは干し柿。

 3年前に断捨離の済んだ本棚には、もう一度手にしたい本は一冊もない。
もったいないから置いてあるのだ。この棚を整理したら……。
本に限らず小屋の中にも不必要なものがある。ある。捨てきれいないでいる。
 今日を限りの命のように思ってみたり。話したりしながら、それはまた
明日、来年、使えるかもしれない。と明日に淡い希望と夢を覗かせているから
本当の断捨離ができない。
 昼飯にお餅を焼いた。まーるく膨れて焼けた。そうだ、そっくりの色紙が
あるはずと色紙を出して壁にかけた。10年も前に描いた俳画だ。文字が書
けていない。
 真剣に17文字を練っている。




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