第79話 竹の子

文字数 491文字

「天気がいいから竹の子堀にゆこう」
このところあまり元気がないのは歳のせいだと諦めて
いたが、たけのこ掘りの言葉を聞いて、俄然元気になった。
山上まで登るので、弟は小さい車を用意していた。
Kの山もHの山も裏山も、猪に荒らされっぱなしだった。
人間はまだ竹の子山には、入っていない様子。もしかしてあ
諦めて帰ったのかもしれない。一本の蕨を手折ることもでき
ない。どうしてだろう?蕨も生えていないのだ。
 何年か前にはトラックも入ることのできた山みちは、助手席
でいても息を凝らすほど荒れていて、恐ろしかった。
いよいよ野生動物の王国になってしまった感否めない。
 猟友会が捕獲用の檻を何箇所にも設置してあった。また猪の
通る道と思しきところに罠も仕掛けてあった。そこは人間の目
に着くように「罠にご注意」の札が下げられていた。
 昔、罠に掛かったお隣のおじさんのことを連想して、恐ろしく
避けて歩いた。
 竹の子も蕨も山の幸の収穫はなかったけど、鶯には歓迎された。
 「ヤッホーと答えた。
「声だけは元気だなぁ」
「そうよこれ仕方ないの」 
境も見えず山は笑っていた。
兄と弟と三人でこの山に登った日のことを思い出している。

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