第81話 隔世遺伝

文字数 621文字

「ばあちゃん農園に何も無くなったわ何か植えなくては、何を植えたらいいの」
昨日まで1カ月あまり京都へ出張していて帰って来たばかりだと、孫娘からLINE
があった。
「そろそろ胡瓜とトマトは、定植してもいいでしょう。三度豆はいまがまきどきよ」

 昨年のことだ。7月のある朝のことである。
「ばあちゃん、1日の間に胡瓜が大きくなって驚いているの」
「そうよ胡瓜は成長がはやいから早めに収穫しなくてはね。何か嬉しそうね」
「そう楽しくて、作物の成長がうれしく、いま農園が生き甲斐なの」
「へえーそんなら、大金をはたいた進路は間違っていたのかな」
「悪いけどそうかもよ」
都心に暮らしている孫娘は、夢叶って、とうとう貸し農園の一区画を借り受けて、
ままごとのような家庭菜園を始めたという。勤務の休日も不定期な上、出張も
ある。その時は、弟にバイト料を払い面倒を見てもらっていると言う。

 にわか農園で採れた野菜を時々持って帰るが
「母さんの野菜の方が数段立派よ」母親(娘)は苦笑いしていた。
娘は花壇の草も抜かず、およそ土には無関心なのに、どうして孫娘は
土に、農に関心があるのだろうか。
 そうだ。私の農耕民族の血をひいたのだ。
これを隔世遺伝というらしい。先祖にあった劣勢形質が世代を経て、
子孫に現れるというから、私の土いじりが至福の時であるように、
孫娘も菜園がきっと楽しいのであろう。
好むと好まざるにかかわらず劣勢も優勢も遺伝する。
「土に親しむ他は先祖返りしないで」と呟いている。









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