第45話 やっぱり駄目か(2)

文字数 678文字

 好むと好まざるにかかわらず日は昇る。
毎回食事の半時間前から食堂は解放されている。
ゆっくり行ったり、早く行ったりいろいろ試みた。

 4人の卓に3人かけている。後から入室して前の席の人に
「おはようございます」声をかけても、挨拶は返らない日の
方が多かった。返事をもらった時はホッとした。

 また後ろの席の人が、私の頭でテレビが見えん。と何度も
訴えていた。
「ここはテレビを見る部屋でなく、食事をする部屋だからと係は
その都度話していたが、どこまで理解されたかは?である。

 その内、食事の時は早々と席に着いていると、前を向いている
ので、後から来る人に挨拶する必要のないことを知った。

 黙って座って、黙って待って、静かに早々食べて、1番に席を立つ。
私の流儀が定着した。

 入浴も然り、有って無い、暗黙の順位がある。
広々とした浴槽に最終のつもりでゆっくり浸かっていたところ、ある日
Aさんの訪問をけた。入所、以来初めての来客である。Aさん曰く、
「私はお腹を切り刻んでいるので人に見せたく無いから最後に入浴して
いたが貴女がゆっくりするから私、困っているの。何とかならない」
「知らぬとはいえごめんなさい」真実、詫びた。
その時、ハウスの主も、いじわるばあさんの話もハウスの概要も把握した。

 一つ屋根の下なんて、ロマンチックな挨拶をしたけれど、10人よれば
10のドラマがあり、それぞれに乗り越えてきたのだ。人の数だけ哀楽の
歴史があることを改めて実感した。
 帰る家もない。身内は誰もいない。微々たる年金のみが命の綱。
の老人を垣間見た。
 あれも人生。これも人生。生きることの重さを実感した。







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