第93話 蜘蛛の巣城

文字数 1,051文字

 今年初めて大きな蜘蛛に出会った。
趣味の会のお題は虫。やがて80年にもなるだろうか「蜘蛛の巣城」が色の濃淡を
なくして甦った。蜘蛛は虫か動物かと問えば動物であり、蛛形類(クモ類)に属して
いるという。セアカゴケグモやハイイロゴケグモは毒性が強いことで知られているが、
ハエトリグモ、アシダカグモなど、大小合わせると110もの種類があるというから
驚きである。その上、人畜無害である。

「朝の蜘蛛は鬼に似ていても殺すべからず、夜の蜘蛛は親に似ていても生かすな」と
祖母から教えられて育った。蜘蛛は害虫を食べてくれるので蜘蛛権を重んじて朝は
殺さずといったのか?納屋や天井に張る蜘蛛の巣にうんざりして夜の蜘蛛は殺せと
いったのか?定かでない。諺の綾に洗脳されていたのだろうか自分も、子供たちに
同じことを言って育てた。夜の蜘蛛も時が流れ朝になれば、朝の蜘蛛として人間に
容認されて生きていたのだ。命あるもの無闇に殺してはいけないという、戒めで
あったのかと、今ごろ納得している。

 小学高学年の夏、2階の窓からぼーっと庭の木を見ていた。
大きな蜘蛛が落ちるように降り、下の木の枝に止まった。その後、
風に吹かれたのか、飛んだのかは定かでないが、お尻から銀の糸を
出して、見る見るうちに6角だったがか、8角だったかのたて軸を作った。
大外から右回りして上へ登った記憶が微かにあるが、思う込んいるの
かもしれない。360度を何十回?何百回かもしれない。回り続けけた。
粘い、細い糸の上を一心に網も崩さず、だんだん央に近づいてゆく。
こうして己の力で「蜘蛛の巣城」を築城した。(しかし、昔、蜘蛛の巣は
中央から外へ外へと張ってゆく)と読んだような気もする。
 央へ向かう方がロマンがある。思い込んでいるのだから、そのまま央へ向かう。

 蜘蛛の王様は央に陣取った。けど疲れているだろうなと子供心に案じた。
風が吹こうが、どこ吹く風と風に任せて動かない。風は網目の城を吹き抜けてゆく。

 気になるので、次の日また二階の窓を開けてみた。蜘蛛の巣城は激戦を
物語っていた。銀の糸に巻かれたアブが1匹かかっていて、王様の姿は
見えなかった。アブは害虫という概念があるから可哀想には思はなかったが、
弱肉強食の世界を目の当たりにして、子供なりに無常を感じたものだ。

 昨日あれだけの糸を出したのだから王様もしばらく築城できないだろうと、
戦いの果ての城をぼんやりみていた。

 夏休みの作文は「蜘蛛の巣城」を書いた。
 
 今日は、暦の上では立つ秋だ。
 辛抱の続くこの夏は、いつ果てるのか。









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