第7話 昭和は遠く桜の咲くころ

文字数 371文字

 ちらほら桜便りを聞くようになると、
わくわくしながら、遊山箱を倉庫から出して、
あといくつ寝たらと、指折っていた。
何もない貧しい時代の子供たちにとって、桃の節句は
正月や祭りに匹敵する三大イベントである。
旧暦の三月三日は節句。四日は残り節句といって楽しんだ。
 遊山箱は赤、青、黄色の三段からなり、赤の箱には
お寿司、中の黄色の箱には羊羹。青の箱には、にしめ。
この中にゆで卵が半分に切って真ん中に入っていた。
美味しい以前に、豪華さを、見てもうれしかった。
玉子は 半分食べて半分を残しておいた。
惜しかったのだ。
 雛飾りも今のように立派ではない。というより
私はお軸一本だった。性根がつくと、この一本の軸に
不足を言った。
 三年生で大戦が始まったので、一〜二年後には、
遊山どころではなくなり、幻の遊山箱になっていたが、
 最近、豪華な遊山箱が店頭に並んでいる。

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